5-(1) 狼はがし

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「てんめぇ! ふざけたこと言ってんじゃねぇ! 行け、タイガ!」  また狼が襲ってきて肉壁のひとりが血を流して倒れる。  術者の近くにいるほど式の力も強いと言うのは本当らしい。柴犬くらいの子狼でもこれだけの威力がある。 「あららー、このクズ達も君の仲間なんじゃないの? すぐ病院に行かないと死んじゃうかもよ」 「う、うるせぇ! この××野郎!」  下品な大声を出すばかりで、誠司に知性は感じられない。  大賀見家は昔から代々この地域の平和と安定を守って来たと雪華は言っていた。実際に、先代当主の頃は軽々しく狼を使うことは禁じられていたそうだ。けれど、今の当主に代替わりしてからは、こんなバカが私利私欲のために狼を使っても誰も罰しようとしない。今の当主は、つまり俺の父親はあまり当主としての適性が無いのかもしれない。  俺はさらにファイルをめくる。 「へぇ、誠司君は6歳で母親から式狼を譲り受けたんだ。きっとすごく嬉しかったんだろうねぇ。ちょうどその頃君の通う幼稚園では、いじめっ子が何人も野犬に襲われて怪我をしちゃってるねぇ」 「な……どうしてそれを……」  手をかざすのをすっかり忘れて、誠司は俺を凝視している。 「ほうほう、それで味をしめちゃったのかな? 誠司君7歳の秋、運動会の徒競走で一番になりたいばっかりに、足の速い子を三人病院送りにしているね。そのうちの一人は後遺症が残って今でも車椅子生活だ」 「は? そんなことをどこで? なんで卑しい狐ふぜいが俺のことを調べているんだ」 「うーん、いじめっ子に仕返しするのはまぁ分からなくも無いけれど、かけっこのために狼を使うなんて、誠司君ってくだらないことをするよねー」 「おいお前、誰に聞いた? 俺のことをどうやって調べた! 当主様だって知らないのに!」  雪華が知っていることを当主が知らないはずがない。知っていても、罰することなく放置していたんだ。本当に、今の当主はどうしようもない。 「わー、それからはもうやりたい放題だ。誠司君より目立つとか、誠司君より成績がいいとか、誠司君より女子にモテるとか、そんなしょうもない理由だけで次々と事故に見せかけて怪我を負わせている。式狼は普通の人には見えないもんね。事故にあわせるのも簡単だぁ」  いい反論が思いつかないのか、誠司は何か言いたそうに口をパクパクさせている。
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