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「君に逆らうと悪いことが起きるっていうんで、中学生になる頃には誰も逆らわなくなったんだね。高校では一年生の時から生徒会長になって、君はずっと王様だったわけだ。教師たちも大賀見の名前が怖くて面と向かっては何も言わないから、君はどんどんつけあがって何でも思い通りにしてきたんだね。あはは、毎日が楽しかったでしょ?」
にっこりと微笑んで見せると、誠司はにへらっと気味の悪い笑みを見せ、はっとしたように首を振った。
「うん、ここまで救いようのないクズだとこの先が楽しみだ。大賀見誠司には恨みを持つ人がたくさんいる。君に力が無くなったと知れば、復讐したい人はいっぱいいるんじゃないかなぁ」
「は? お前さっきから何言ってんだ! 殺すぞ、この野郎!」
俺はとびきりの笑顔で、誠司に手を差し出した。
「ちょうだい、それ。そのかわいい狼」
「や、や、やるわけねぇだろ!」
「そう? あげたくならない?」
「な、な、ならない!」
大声で叫びながらも、誠司は俺から目を離さない。多分もう離せなくなっている。
「ふふ、そんなにじっと見ないでよ。俺の顔好きなの?」
「は? 誰がそんな、そんな綺麗な顔……」
ぶるぶるっと頭を振って誠司は俺を睨みつけて来た。
「お前みたいなケダモノを誰が」
「おっと、意外としぶといね。この男の子達はすぐにトロンと溶けたのに」
「ふん、俺を誰だと思っている。大賀見誠司だぞ」
「わー、かっこいー。誠司君、すてきー」
「バ、バカにするな」
「バカにしちゃだめ? 俺と誠司君の仲じゃない」
「仲って何だ。俺と狐の間には何も……何も……」
誠司の声のトーンが少し落ちてきている。
俺は盾になっている肉壁の間を抜けて、誠司の間近に立った。
誠司の口がぽかんと開く。
式狼は威嚇をやめて、キョトンと俺を見た。
「誠司君、お願い。俺に狼ちょうだい」
手を伸ばして、誠司の頬に触れる。
誠司は一瞬びくりとしたけど、そのまま固まったように動かなくなった。
「誠司君の狼欲しいなぁ」
「俺の、狼……」
「ちょうだい、誠司君」
誠司は俺を見て、次に自分の式狼を見て、また俺を見てくる。
「俺の狼、欲しいのか……」
「うん、この子欲しい。かわいいタイガくん欲しい」
「タイガ……」
「そう、タイガ。どういう字を書くの?」
「タイは大きいで、ガはみやび」
「そっかー、大雅だね。誠司君は素直でいい子だ」
誠司の頭を撫でると、その目がやっとトロンとしてきた。
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