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俺には妖狐の血が半分入っているから、拒絶反応のようなものが出る可能性もあると雪華は危惧していたが、何の抵抗も無くすんなりと契約がなされてしまった。
「大雅」
俺が呼ぶと、大雅は嬉しそうに俺にすり寄って来る。ひんやりぞわりとする感触は、叢雲たちと同じだった。
「おいで、大雅」
大雅がするりと俺の影に入って見えなくなった。
自分でもちょっと驚く。俺は大賀見家に伝わる術なんてひとつも勉強していないのに、大雅をどう使えばいいのか本能のように把握している。これが、大賀見家の血ってことなんだろうか。
「あきら……」
誠司がぼうっと俺を見ている。
俺は、血を流して倒れている二人と、ふらふらと立っている三人を見た。
「うーん、初めての『狼はがし』は50点くらいかなぁ」
自分から襲撃するのは初めてだったし、誠司たちのレイプ未遂現場に行きあたったことによる見切り発車だったせいもある。でも、そういうことを差し引いてもあまり手際はよくなかったと思う。
俺の本性は獣だけれど、それほど血や破壊を好むわけでもない。友哉みたいなきれいな人間のそばでぬくぬくと幸せに育ってきたから、争いごとには慣れていないんだ。
「ねぇ、誠司君」
「はい」
「今日あったことは誰にも言っちゃいけないよ。狼を失ったなんて知られたら大変なことになるでしょう?」
「大変なこと」
「うん。何の力も無くなった君に取り巻きが従い続けるとも思えないし、これまでに恨みを買った相手には仕返しをされちゃうかもしれないしね」
俺が言っていることが分かっているのかどうか、誠司はぼうっと俺を見ている。
「それと、狼を失うことは一族の恥なんでしょう?」
「そうだ、一族の恥だ……」
「狼がいなくなったことは、身内にも内緒にした方がいいよね」
「狼がいないことは、身内にも言わない」
「そう、誰にも言わない。君のためにもね」
俺は誠司の頭をぽんぽんと叩いた。
「頑張って隠してね、誠珠」
「がんばって、隠す」
「うん、誠珠はいい子だ」
「俺はいい子」
「あ、ついでに救急車も呼んであげて。死んじゃったらめんどくさいしね」
「救急車を呼ぶ」
誠司がポケットからスマートフォンを出して操作し始めるのを確認してから、俺は血の臭いのするその場を離れた。
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