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「誰にも言わないでねって念を押しておいたけど」
「いずれ知られる」
「だろうね」
「そして、あきらの力を危険視した当主の判断はやはり間違っていなかったということになるだろう」
「はっ、なにそれ。力が大きいから何だって言うの?」
苛立ちがそのまま声になる。
「俺は友哉と二人で生きていけたらそれで良かったんだ。あいつが俺に攻撃を仕掛けて、友哉を巻き込んだりしなければ、俺は誰も傷付けなかったし大賀見家とも関わらなかった。女の子達が山で遭難したのも、無関係の人が病院で何百人も怪我したのも……これから一族のやつらが次々と『狼はがし』されていくのも、全部大賀見家の当主の判断が間違っていたからだろうが」
雪華はエンジンをかけるのをやめて、俺に向き直った。
「当主を擁護するわけではないんだが、友哉君のような存在があきらと共にあるなどとは、あの方にも他の誰にも予見できなかった。まさか大賀見家が恐れる大妖狐『久豆葉あきら』を、子犬のように手懐けてしまう人間がいるなんてな」
「子犬ってなんだよ」
「正確には子狐か」
「バカにすんな」
雪華は静かに首を振った。
「バカにしているわけではない。もしもあきらが友哉君と出会わなければ、おそらく今頃は誠司と大差ない暴君になっていたはずだ。大きな力は人の心を歪めるものだからな」
「あのクズ野郎と一緒にするなよ」
「だが、お前の善悪の基準は友哉君なんだろう? なぜ人を殺してはいけないと思うか。なぜ人を傷付けてはいけないと思うか。友哉君がいなければ、お前はそれをいけないことだと思ったか?」
「俺は必要ならば何人でも殺せるよ」
「つまり必要が無ければ極力殺さないのだろう? お前は人の命を玩具にできるくらいの力を持っているけれど、けしてそんなことはしない。ちゃんと命を大事だと思っているからだ」
「はぁ……。雪華の言葉はもったいぶっていて分かりにくいよ。結局、何が言いたいんだよ」
雪華は言葉を探すようにちょっと黙ってから、やっと口を開いた。
「つまり、お前は友哉君に人間にしてもらったんだ」
「だから?」
そんなこと分かっている。友哉がいなかったら人間のふりをする必要がないんだから。
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