31人が本棚に入れています
本棚に追加
「幼い頃すでにあれだけの力を持っていたんだぞ。周囲の人間を支配して何もかも思い通りにできたのに、お前が本物の化け物にならなかったというのは驚きでしかない。大賀見家の誰も、今のあきらを想像できなかった」
「へぇ。予言とか無かったの? 大賀見家ってそれ系の怪しい家なんでしょ」
「予言はあった。先々代の大奥様が残したものだ」
「なんて予言?」
「狐の子が大賀見を滅ぼす」
俺はブッと噴き出した。
「まじで!? 当たっちゃってるじゃん」
「ああ、皮肉な話だ」
肩をすくめ、やっと雪華は車のエンジンをかけた。
ゆっくりと車を発進させながら、雪華はさらに言葉を続けた。
「そんな予言があったから当主はお前を殺そうとした。殺されそうになったから、お前は大賀見家を潰そうとしている。予言がめぐりめぐって未来を確定させたんだ」
「はー、ばっかみたい」
吐き捨てて、窓の外を見る。三乃峰の賑やかな街の明かりが流れていく。友哉にはもう見ることのできない景色だ。
友哉と出会えたことで俺の人生が変わったのだとしたら、俺と出会ったことで友哉の人生も変わってしまったんだろう。
もしも俺がいなければ、友哉は優しい両親のもとで普通に高校に通い続け、御子神や吉野のほかにも大勢の友達に囲まれていて、市内に閉じ込められることも無く、あの黒く輝く瞳で好きなものを見ることが出来たはずだった。
でも、もしも時間を巻き戻して人生をやり直せるとしても、俺は必ず友哉を手に入れるし、絶対に手放してやらない。友哉の一番近くで生きるのは俺だし、友哉のきれいな愛情を受け取るのも俺だけでいい。
「なぁ雪華、早く帰ろう。友哉に会いたくなってきた」
友哉はもうとっくに眠っているけど、寝顔だけでも見たくなった。
クズどもの相手をして疲れた心を、きれいなものを見て癒されたい。
「ああ、分かった」
雪華がぐっとアクセルを踏み込む。
スピードを上げた車は、しばらくして屋敷のある暗い道へ静かに入って行った。
最初のコメントを投稿しよう!