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5-(2) 依存しているのは
冷たいものが頬に触れてきて、寝ていた俺の体がビクッと跳ねた。
「え?」
驚いてまぶたを開くと、ぼうっと光る緑色の目と目が合う。
「あ……碧空?」
名前を呼ぶと嬉しそうにまた顔を舐めてくる。
「うわ、お前らって舌も冷たいんだな」
手を伸ばしてひんやりした毛を撫でると、横からもう一匹がひょこっと顔を出した。
「叢雲もいたのか」
返事をするように叢雲もすり寄ってくる。
「あはは、待って、なに? どうした?」
匂いを嗅ぐように顔を近づけてきてくすぐったいし、普通の犬よりかなり大きいからじゃれてこられると重くて苦しい。
目が覚めてしまったが、今何時だろうか。
明るさも分からないし時計も見られないけど、鳥の声が聞こえないからまだ夜が明けていないかも知れない。
俺はもふもふに埋もれた体をなんとか起こし、見えたものにキョトンとしてしまった。
叢雲と碧空のほかに、さらに二匹の狼がいる。
「え……なんで? 増殖してる?」
叢雲たちより大きな一匹と、それよりかなり小さめの一匹、どちらも俺を興味津々という感じで見つめている。
俺と目が合うと体が小さい方は人懐っこく寄って来たが、もう一匹は少し離れたところからじっと窺うように俺を見つめていた。
四匹とも毛は銀色で目は緑色をしているけれど、少しずつ微妙に違っている。叢雲の尾は碧空より少し太く、碧空の目は叢雲より少し釣り上がっていて、小さめの子は毛の色が少し暗めで、後ろにいる子は立派な体躯で前足が太くがっしりしている。
俺の目には彼らしか映らないので、ついつい観察するように凝視してしまうのだ。
「あ、お前」
だからこそ気付いた。後ろでじっとしている大きな子が、数日前に現れた狼と同じだと。
「えっと確か、銀箭だったよな」
呼びかけてみると、その耳がピクリと動いた。
俺が手を差し伸べると銀箭はためらうようにこちらへ一歩踏み出したが、叢雲と碧空が威嚇するように俺の前にずいと出ると、急に回れ右して走りだしてしまった。
「あ、待って」
手を伸ばしたが、追いつけるはずがない。
銀箭はあっという間に走り去っていく。
それで俺はひとつのことに気付いた。俺の目は壁を映さない。だから式狼が壁の向こう側に行っても透過するように見ることが出来るらしい。銀箭の姿はかなり小さくなるまで、つまりかなり離れた距離に行くまで俺の目に映っていた。
小さい方の狼が、叢雲と碧空の間に割り込むようにしてぐいぐいと体を寄せてくる。
「何だよ、撫でて欲しいのか」
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