5-(2) 依存しているのは

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「なんだろ? 明日おじさんに聞いてみるね」 「ああ、そうしてくれ……って、何をやってる?」 「布団引っ張ってる」 「なんで?」 「お兄ちゃんの隣で寝たいからー」  布団を引きずる音の後に、すぐそこでパシパシと叩いて整えている音が聞こえてくる。  俺は首を傾げた。  あきらはどうしたんだろう。  いつにもまして子供のようなことをする。 「あきら、何かあったのか?」 「ううん、何も」 「ほんとか?」 「ちょっと嫌なものを見ただけ」 「嫌なものって」 「見るだけでこっちの心も汚れちゃいそうな……」  あきらはなぜかクスッと笑った。 「そういう嫌な夢」 「なんだ夢かよ」 「キモくてグロくてチョー怖い夢、聞きたい?」 「いや聞きたくはない」 「あのねー、ゴキ……」 「ワーワー、聞こえない! 何にも聞こえない!」 「あははは、言わないから近くで寝させて」  夢くらいでこんなこと言うなんて、体が大きくなってもあきらの中身はまだまだ小学生みたいだ。  おれはふぅっと息をついた。 「あきら、おでこ出せ」 「おでこ?」  俺が右手を伸ばすと、あきらがそれを自分の額に持って行った。 「これでいい?」 「うん、じっとしてろ」  俺は指を滑らせて眉と眉の間を探し出し、小さく唱えた。 「バクさん、バクさん、悪い夢を食べてください」  そうしてあきらの眉間をトントントンと軽く叩く。 「ほら、これでもう悪い夢は見ないから」 「それは…………どうも、ありがと」  ポソリと返事をして、あきらはごそごそと布団にもぐった。  俺も布団に体を戻して目を閉じる。  静かになった和室の中に、我慢できなくなったみたいにクスクスと笑う声が聞こえて来た。 「おい」 「くっくっくっ」 「おい笑うな」 「だって、おまじないとか……ぷっ……友哉がすげぇかわいいことするから」 「あきらが怖い夢見たって言うからだろ」 「だってぇ、くくくくっ」 「お前なぁ」 「こんなかわいいおまじない誰に教えてもらったの?」 「母さんだよ。小さい頃によくやってくれた」 「あぁ、そっか、おばちゃんか……」  優しい母さんの思い出と、あきらの髪に執着していた異様な母さんの姿がオーバーラップして、なんだか言いようのない気分になる。  あきらが小さな声で聞いてきた。 「おじちゃんとおばちゃんに会いたい?」 「父さんと母さんがあきらにしたことを思うと吐き気がする」  強い口調で言うと、横で布団の動く音がした。 「二人は悪くないんだ。全部俺のせいだから」 「でも怖い思いをしたのはあきらだろ」 「……そうだけど」
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