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「あきらから離れれば俺の親は元に戻るのかもしれないし、俺は自分の家に帰るべきなのかもしれない。あきらには雪彦さんという保護者もいるから、心配する必要も無いのかもしれない。ほんとは分かっているんだ。目の見えない俺が一緒にいても助けになるどころか、あきらの負担になるだけだって」
「そんなこと」
「でも、あきらから離れてしまうと、もう二度と会えなくなりそうでなんだか怖い」
本当に大賀見家のお家騒動は決着しているんだろうか。時々、会話の途中で不自然な空気を感じることがあって、あきらと雪彦は俺に何かを隠している気がしてならない。
でも、そんなことを思うのも、俺があきらのそばにいる正当な理由を欲しがっているせいなのかもしれない。
俺の心には迷いがある。あきらに負担はかけたくない。でも、あきらと違う場所に別れて違う人生を歩いて行くのも怖い。
目が見えなくなったことで、俺の人生は急激に変わってしまった。子供の頃から変わらないのはあきらだけだから、どこかで依存してしまっているような気がする。
「ごめん……。俺のわがままだ。ここにいるのが迷惑なら家に帰るよ」
「やだ」
ぐっと枕の端が沈んで、肩のあたりに何かが当たった。
「嫌だ、ずっとそばにいてよ」
あきらが俺の肩に頭を乗せたらしい。そこから泣きそうな声がする。
「あきら」
「全部終わったようなことをおじさんは言うけど、俺はまだ怖い。大賀見の家も不気味だし、それにきっとまた俺のまわりで同じことが起こる。山田さんも佐藤さんも数ヶ月もすればきっとおかしくなるだろうし、雪彦おじさんだってどうなるか分からない。信じられるのは友哉だけだ。変わらないでいてくれるのは友哉だけなんだよ。だから帰らないで」
体が大きくなるにつれて、あきらは逆に子供みたいに甘えることが増えてきた気がする。大人になっていく体や、どんどん変化していく環境に、心が追いついていかなくて不安定になっているみたいだ。
「お願い友哉、俺のそばにいてよ」
高校生にもなって子供じみたこと言うあきらに、俺はどこかで救われている。あきらに甘えられること、頼りにされることで自分を保っているような……。
共依存、という言葉が思い浮かんだ。
あきらは自分のまわりの大人を信じ切れない。
俺は自分の親さえも信じられない。
心の寄り掛かる先がお互いしかないのは、あまり良くない状態だと分かっているのに。
「うん、そばにいる」
「ほんと?」
「ああ、弟を置いて帰ったりしない」
それでも、俺とあきらは十年以上も共に過ごしてきて、ずっと親友で戦友で兄弟だった。あきらは俺を信じてくれるし、俺もあきらを信じている。それだけは、きっと死ぬまで変わらないから。
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