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5-(3) それぞれに見える世界
友哉の目が見えなくなってから二週間が過ぎていた。
狼はがしは順調に進んで、俺には今6匹の式狼がいる。
大雅、連翹、つゆくさ、朧、磯良、アレス。最終的には21匹になる予定だから新しい名前を考えるのも面倒で、もとの所有者が付けた名前をそのまま使っている。統一感は無いし、うっすらと中二病の匂いがしなくもないけれど。
力のある術者でも3匹より多く所有するのは稀で、過去の当主が10匹従えていたのが最高なんだそうだ。式を持ちすぎるのも術者の負担になるらしいから、いずれ何匹かは野に放つつもりだ。
解放した狼がどうなるかは分からないと雪華は言っていた。笛流里がやって来たという西方へ帰ると伝わっていて、一度放つともう二度と戻って来ないそうだ。だから、主従のつながりが切れた銀箭が未だに姿を見せることを、雪華はかなり訝しく思っているようだった。
「あきら、吉野部長と御子神、何時に来るって?」
片手で壁を触りながら歩く友哉が、リンリンの通知音に気付いて聞いてくる。
俺は友哉の少し後ろを歩きながら、スマートフォンのアプリを開いてリンリンのメッセージを読んだ
「もうちょっとかかるみたい。なんか、御前の踏切に花を供えてから来るって」
「花を供える?」
「うん、最近、そこで知り合いが死んだらしいよ」
「え、俺の知っている人?」
「どうだろ? 名前は書いてないけど」
友哉は応接室の前まで来ると、手探りでドアを開けて中に入った。ソファの位置を把握しているので、ほとんど迷いなく進んで自力でそこに座ってしまう。
両親のもとへは帰らないと約束してくれた翌日から、友哉はできるだけ自分のことは自分でやりたいと言い出して、壁伝いに歩く練習なんかをさっさと始めてしまった。俺は友哉を一生介助していくつもりだからそんなことは必要ないと言ったんだけど、友哉が出来るだけひとりで歩きたいというのを止めることは出来なくて、結局その練習に付き合うことになってしまった。
そうして、友哉はトイレと洗面所と風呂とダイニングはスタスタと怖がらずに行けるようになったし、ひとりで風呂に入れるようになったし、食事もかなり上達してしまっている。
もともと器用なこともあって、見えない状態に慣れるにつれて友哉の出来ることはどんどん増えていった。最近では、掃除や洗濯、料理も出来るようになりたいなんて言い出して、山田と佐藤に手伝ってもらいながら楽し気に挑戦を始めてしまっている。
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