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家事が苦手な俺は友哉と一緒にいる時間が減ってしまって、実はちょっと面白くない。
ゲームでもすればいいと友哉は言うけど、あれは二人でやるから楽しかったんだ。
友哉は根っからの努力家だから、その内に白杖の使い方とか点字の読み書きとかを習いたいと言い出すと思う。俺は友哉を盲学校へは行かせたくない。俺の手の届かないところで人間関係を作って欲しくない。俺以外の誰かを大事に思って欲しくないから。
友哉に嫌われることなく、自然に孤立させるにはどうしたらいいだろう。
「あきら、どうした? 座らないのか?」
俺が悪いことを考えていることも知らずに、友哉はいつも通りに俺を呼んだ。
俺は友哉の隣に腰を下ろして、その手の上に一台のスマートフォンをぽんと乗せた。
「はいこれ」
「これ?」
「友哉のスマホ」
「えー、渡されても使えないよ。表面ツルツルでボタンが無いし」
「音声読み上げ機能とかうまく工夫すれば使えるらしいよ。吉野部長が、見えない人に便利なアプリを勉強したから今日教えてくれるって」
「まじで!?」
「うん、まじで」
「へぇ、そんな機能があるんだ。知らなかった」
「俺達、スマホほとんど使いこなせてないもんな」
「見えている時も使っていなかったのに、見えなくなってからちゃんと使えるのかな」
「スマホは絶対に使うべきだって吉野部長が力説してた。文明の利器はそのためにあるんです、だって」
「そっかぁ、ちょっと楽しみだな」
友哉はスマートフォンの表面を撫でながら嬉しそうに笑顔を見せた。
本当は友哉にはスマートフォンも持たせたくなかったけれど、行動を制限しすぎるのも不自然に思われるかも知れない。なにより、今みたいな笑顔を見ると、俺もふわっと嬉しくなってしまう。
「ねぇ友哉、どっか行きたいとこある?」
「ん、なんで」
「だってもう俺ら、どこにでも行けるじゃん?」
「うーん、行きたいところかぁ。閉じ込められていた時は、もしも御前市を出られたら日本中回りたいなんて思っていたけど」
「いいね、日本中か。行こうよ」
「簡単に言うなよ。俺を連れていると介護みたいで楽しめないだろ」
「なんで? 今だって一緒にいるだけで楽しいのに」
友哉がちょっと瞬きをする。
「あはは、確かに。あきらと一緒ならどこでも楽しいかもな」
「うん、きっと楽しいよ」
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