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吉野とミコッチに友哉の目のことを話した時は、思った通りにミコッチから大きな反発があった。友哉を家に帰してきちんと治療を受けさせ、障害者手帳も取得して福祉のサポートを受けさせるべきだと。
友哉の失明は呪いによって魂を傷付けられた結果だから医学で治せるものではないし、医者やヘルパーが友哉の体にべたべた触るなんて俺は不快でしかない。ミコッチに何を言われようと、俺は友哉の一番近くにいられるこの現状を変えるつもりは無かった。
以前のミコッチは、いつもふざけた口調で面白いことばっかり話していたのに、一乃峰で友哉が倒れて以降は真面目なことしか言わなくなってしまった。病院での出来事がよっぽど許せないらしくて、会うたびに俺に正論をぶつけてくる。
力を使えば誰でも俺の言いなりになってしまうし、なんだかんだ言っても友哉は俺に甘いから、『久豆葉あきら』に正面から意見できるのはこの世でミコッチだけかもしれない。
俺にとっては貴重な人材なので、どんなにズケズケ言われてもミコッチに危害を加えるつもりは無い。けれど、友哉に余計なことを言わないように脅すことはちゃんと忘れなかった。ミコッチにも大事な家族や大事な友人や大事な彼女がいる。人を脅すって案外簡単なことだ。
ノックの音がして、雪華が皿を持って応接室に顔をのぞかせた。
「あきら、友哉君。佐藤さんがクッキーを焼いてくれたんだ。どうかな」
友哉がすぅっと鼻から息を吸い込む。
「バターのいい匂い……佐藤さんのお菓子美味しいですよね」
「友哉君がこの前作ったチーズケーキも美味しかった」
「いえ、あれはほとんど佐藤さんにやってもらったので」
「いやいや、見えないのに手際がいいって佐藤さんも褒めていたよ」
「そうなら嬉しいな」
雪華はニコニコしながらテーブルに皿を置くと、自分も向かいのソファに腰を下ろした。
「あきら、これ」
雪華がポケットから紙を出して渡してくる。
ざっと目を通してから、俺はふっと息を吐いた。
「なに?」
友哉が首を傾げる。
「数学のプリント」
「勉強、進んでいるのか」
「うん、ばっちりだよー」
友哉は突然視力を失ったので、とりあえず一時的に休学扱いになっている。
俺は友哉のいない学校に行く気は無いからもちろん休学したけれど、俺が休学することについては少しだけ友哉と揉めた。学校に行くように勧める友哉を、高卒認定試験を受けるからと言ってやっと説得したのだ。だから、俺は雪華に勉強を見てもらっていることになっている。
だが、もちろん、今渡された紙は数学のプリントなんかではない。
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