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そこには、雪華の手書きで誠司が死んだことが書かれていた。学校の屋上からの転落死、あのクズにはぴったりの死に場所と言うか予想通りというか。
まだ詳細は不明だが、そのうちに警察の調書のコピーが届くことになっているらしい。三乃峰の警察の中には大賀見の息のかかった駒が何人もいる。
誠司の死は予想していたけれど、その時期は思ったよりもずっと早かった。狼を失ったことを隠し通すには、あいつは頭が悪すぎたみたいだ。あれだけ方々に恨みを買っていればいずれ殺されるだろうなと思っていたが、これは予想より早く狼はがしが一族に知られた可能性が高い。警戒しろ、とその紙の最後に書いてあった。
警戒して守りに入るよりも、狼はがしのペースを上げた方がいいと俺は思う。あいつらの狼をはがせばはがすほど、大賀見家は弱体化していく。逆に狼を得た分だけこちらは戦力が上がっていく。まさに攻撃は最大の防御ってやつだ。
「雪彦さん、今日はよろしくお願いします」
友哉がペコっと頭を下げた。
「そう改まらなくてもいいよ。お友達はまだかな?」
「はい、もう少しで着くそうです」
吉野の左耳に憑いているものについて、雪華が判断するという話になっている。あの小鬼は弱い魔物だから放置でかまわないと思うが、友哉が気にしているのだから仕方がなかった。
俺も雪華も、友哉には弱い。
「今日来るのはオカルト研究部の先輩と言ったかな。友哉君は、部活ではどういう研究をしていたんだい?」
雪華は大賀見家の中で醜い輩ばかり見て来たせいか、きれいな友哉を溺愛して庇護欲を全開に向けている。
あれも買おうかこれも買おうかと提案しては、最低限でかまわないと断られ、あげくに屋敷を完全バリアフリーに改築しようなどと言い出したけど、いつまでもお世話になれませんと遠慮されてしょげていた。
それでも、何のかんのと用事を作っては毎日のように友哉に話しかけている。
「えっと……研究と言うほどのことは何もしていなくて、あの道切りのことで力を貸してもらったので……」
「あ、そ、そうか」
道切りによる結界づくりは大賀見家の中でも雪華を中心に行われたことだ。
「ええと、やっぱり友哉君もオカルトに興味があったのかな」
「いいえ。あの部活に入ったのはたまたまで、初めは『あれ』に学校で襲われた時に、吉野部長が部室に入れてくれて……」
「そ、そうか」
『あれ』、つまり式狼を飛ばして俺達を襲っていたのも雪華を中心に行われていたことだ。
俺達は十年以上も加害者と被害者の関係だった。何を話題にしてもかなりの確率で地雷に当たるのに、めげずに話しかける雪華は意外に図太い。
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