5-(3) それぞれに見える世界

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 友哉は友哉で、大賀見家のせいで視力を失ったというのに、雪華に対して恨み事も言わず、むしろ呪詛返しで傷付いた足の心配までしてやっている。  狭い世界に閉じ込められて、魂に傷をつけられて、目の光まで失った。憎悪や怨恨で心が真っ黒になってもおかしくは無いのに、奪われたものを数えない生き方はしなやかで強い。  友哉は本当にきれいだ。 「えっと、クッキー、いただきますね」 「俺が取るよ」  友哉がテーブルに手を伸ばしたので、俺は横からクッキーを一枚取って、友哉の手に持たせた。 「サンキュ」  笑ってそれを口に持って行き、クッキーが唇に触れる直前に友哉は手を止めた。 「あっ」  驚いたように見えない目を見開き、急に立ち上がる。クッキーがテーブルの上に落ちてカツンと割れた。 「友哉?」 「何かが……」  俺と雪華は友哉の向いている方にばっと視線を向けた。  壁際に置かれた棚に生け花が飾られているだけで、何も異変は無い。 「何かって?」 「何かが、近づいて来る」  俺は雪華を見たが、雪華にも分からないらしくて首を振った。 「何も無いようだが……」 「えっと、人っぽいものが見えて」 「人?」 「うん、大きいのと小さいのがあっちの方に」  友哉は壁を指し、その指がゆっくりと動く。俺達がその指の示す先を目で追っていると、玄関の方角でぴたりと止まった。  ハッとしたように雪華が言った。 「そうか、壁の向こうか」  友哉の目には壁も生け花も映らないから、その分、俺達より気付くのが早いんだ。  意識を向けると俺にも分かる。玄関の方に大小二つの気配。  小さいのは吉野についているあの小鬼だ。  もうひとつは……。 「叢雲! 碧空!」 「大雅! 連翹(れんぎょう)! つゆくさ!」 「待って!」  俺達が式狼を呼ぶ声に重ねて、友哉が制止の声を上げた。 「待って下さい! 知り合いです! 狼で襲わないで!」  現れた式狼達が次にどうすればいいのかと、こっちを見上げてくる。  その時、コンコンコンとドアをノックする音が響いた。 「あきらさん、友哉さん、お友達がいらっしゃいましたよ。お通ししてもよろしいですか」  山田の声だった。  俺と雪華が一瞬ためらった隙に、友哉が返事をする。 「はい、どうぞ通してください」 「友哉、だめだ、危険だ」  庇うように肩を抱き寄せると、友哉は俺の手をポンポンと叩いた。 「大丈夫だよ、あきらも顔を見れば分かるだろ? 中学の時の同級生だよ」  同級生とか、顔とか、そんなものに目はいかない。  だって、そいつ、下半身が無い。  裂けた腹から内臓ずるずるひきずって、血か何か分からないものをボトボト落として、そこに無数の手が群がっているじゃないか。
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