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瑠衣が半べそで、おそるおそるスマートフォンに触れる。
通話状態になり、すぐにかすれた声が流れた。
『わたし……花梨……今、部屋の前にいるの』
―― いやぁ、こないでぇ!
―― 消えてぇ!
『…………うっ……ううっ……』
また泣き声が聞こえてくる。
パジャマ姿の花梨が、泣きじゃくりながら引き返して行こうとしているのが見えた。
ずっと、これを繰り返していたのか?
花梨が電話をかけ、彼女達は恐怖で拒絶して、こんなに近くにいるのにずっと会えないままで……。
俺は空中に浮いているスマートフォンに顔を近づけた。
「大丈夫だ、近田花梨! ここに来てもいいんだ! ドアは開いているぞ!」
―― やめてよ、どうして?!
―― 捕まったら殺される……!
「は? どうしてそう思う? 殺されるようなことをしたのか」
―― ケンカした……。いなくなる前の日。私、花梨にはもう会いたくないって、いなくなればいいのにって、そう言っちゃった。
―― 瑠衣もあの時、花梨じゃなくて芽衣の味方をしちゃった。ずっと芽衣と花梨と瑠衣で、いつも三人で楽しかったのに……。
俺は小さく笑った。
「なんだ。そんなことぐらいで友達を殺したりしないよ。花梨って子はそんなに狂暴なのか?」
―― 違う。でも……。
―― でも怖い……。
「花梨って子も同じだ。ひとりぼっちで、怖くて、助けて欲しいだけだ」
二人が途惑った顔でスマートフォンを見る。
―― 花梨?
―― 本当の花梨?
『わたし、花梨……今からそっちに行くね』
「ああ、待っていてやる」
俺が言うと、またぷつんと通話が切れた。
二人の顔色は真っ青だった。
「友哉、あの子が来た」
緊迫した声であきらが耳元で囁く。
花梨が震えながら近付いて来る。
「ドアを通って来るよ」
花梨はゆっくりと芽衣と瑠衣の方へ近づいていく。その顔にはもちろん殺意なんて無かった。泣きはらした心細い顔をして、お守りみたいにスマートフォンを握りしめている。
花梨の目は宙に浮かんだ芽衣のスマートフォンを見ていた。
芽衣と瑠衣も、宙に浮かんだスマートフォンを見ている。
お互いに、お互いの姿が見えていない。
芽衣と瑠衣の後ろに立つと、花梨はスマートフォンを耳に当てた。
着信音が鳴り響く。
俺が何も言わなくても、芽衣と瑠衣は手をつなぎ合ってうなずき合い、芽衣が片手で応答ボタンを押した。
―― はい……。芽衣です。
芽衣の声が震えている。
―― 瑠衣もいるよ。
瑠衣の声も震えている。
『わたし……花梨……』
―― うん、花梨、会いたい。
―― どこにいるの。
『私、花梨、今、あなた達の後ろにいるの』
びくんと二人の細い体が跳ねた。
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