(2)わたし、カリン、今あなたの後ろにいるの

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 瑠衣が半べそで、おそるおそるスマートフォンに触れる。  通話状態になり、すぐにかすれた声が流れた。 『わたし……花梨……今、部屋の前にいるの』 ―― いやぁ、こないでぇ! ―― 消えてぇ! 『…………うっ……ううっ……』  また泣き声が聞こえてくる。  パジャマ姿の花梨が、泣きじゃくりながら引き返して行こうとしているのが見えた。  ずっと、これを繰り返していたのか?  花梨が電話をかけ、彼女達は恐怖で拒絶して、こんなに近くにいるのにずっと会えないままで……。  俺は空中に浮いているスマートフォンに顔を近づけた。 「大丈夫だ、近田花梨! ここに来てもいいんだ! ドアは開いているぞ!」 ―― やめてよ、どうして?! ―― 捕まったら殺される……! 「は? どうしてそう思う? 殺されるようなことをしたのか」 ―― ケンカした……。いなくなる前の日。私、花梨にはもう会いたくないって、いなくなればいいのにって、そう言っちゃった。 ―― 瑠衣もあの時、花梨じゃなくて芽衣の味方をしちゃった。ずっと芽衣と花梨と瑠衣で、いつも三人で楽しかったのに……。  俺は小さく笑った。 「なんだ。そんなことぐらいで友達を殺したりしないよ。花梨って子はそんなに狂暴なのか?」 ―― 違う。でも……。 ―― でも怖い……。 「花梨って子も同じだ。ひとりぼっちで、怖くて、助けて欲しいだけだ」  二人が途惑った顔でスマートフォンを見る。 ―― 花梨? ―― 本当の花梨? 『わたし、花梨……今からそっちに行くね』 「ああ、待っていてやる」  俺が言うと、またぷつんと通話が切れた。  二人の顔色は真っ青だった。 「友哉、あの子が来た」  緊迫した声であきらが耳元で囁く。  花梨が震えながら近付いて来る。 「ドアを通って来るよ」  花梨はゆっくりと芽衣と瑠衣の方へ近づいていく。その顔にはもちろん殺意なんて無かった。泣きはらした心細い顔をして、お守りみたいにスマートフォンを握りしめている。  花梨の目は宙に浮かんだ芽衣のスマートフォンを見ていた。  芽衣と瑠衣も、宙に浮かんだスマートフォンを見ている。  お互いに、お互いの姿が見えていない。  芽衣と瑠衣の後ろに立つと、花梨はスマートフォンを耳に当てた。  着信音が鳴り響く。  俺が何も言わなくても、芽衣と瑠衣は手をつなぎ合ってうなずき合い、芽衣が片手で応答ボタンを押した。 ―― はい……。芽衣です。  芽衣の声が震えている。 ―― 瑠衣もいるよ。  瑠衣の声も震えている。 『わたし……花梨……』 ―― うん、花梨、会いたい。 ―― どこにいるの。 『私、花梨、今、あなた達の後ろにいるの』  びくんと二人の細い体が跳ねた。
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