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「友哉……」
友哉の肩を抱く腕に、知らず力が入る。
なんでだ?
こんなおぞましいものを見て、なぜ友哉は平気そうなんだ?
「あきら? なんでそんなに緊張しているんだよ? ほら、竹久だよ、めちゃくちゃ野球がうまかったやつ」
俺はごくりとつばを飲んだ。
「友哉には、どう見えているの?」
「どうって……あきらにも見えるんだろ?」
「俺は……幽霊が怖いから直視できなくて……」
本当は腹の切り裂かれた断面や、腸みたいなものが長く伸びている様子や、そこに群がっている何本もの黒っぽい手まで、全部くっきり見えている。
けれど、友哉の反応からして、俺と同じものを見ているとは思えない。
「あきらって幽霊苦手だったっけ? でもこいつぜんぜん怖くないぞ。ちょっとぼやけてはいるけど、生きている時とそう変わりない姿だし」
生きている時と変わらない姿?
ではこの腹から垂れるグロいものはやっぱり見えていないのか?
「友哉、竹久の足は……見える?」
「足? ううん、足は見えない。やっぱ幽霊だから?」
―― あれほんとだ。俺にも自分の足が見えない。
竹久本人までが、さも大発見をしたというように目を見張っている。
「見えないって、どんな感じに」
「どんなって、こう、ぼやーってしている感じ? 上半身はまぁまぁよく見えるんだけど」
では無残に引き裂かれて、ぼとぼとと内臓を落としながら、しかも無数の黒い手にしがみつかれているこの恐ろしいものが、友哉には見えていないのか。
「ちょっといいか? お前ら普通に話しているけど、竹久一球の幽霊が見えているってことなのか?」
ミコッチが胡散臭そうな顔をして、俺達を見てきた。
「見えてるよ。見たくもないけど」
吐き捨てるように言うと、友哉が顔を寄せてきて「そんな失礼なこと言うなよ」と囁いてくる。なんで竹久の幽霊にそれほど気を遣うのか。中学生の頃だって、あまり話したことはなかったはずだ。友哉と竹久の間に、俺の知らないつながりがあったのか?
「俺は竹久が見えて嬉しいよ。いや、死んで嬉しいってことじゃなくて、見えないより見えた方が嬉しいって意味で」
―― 分かってるよ。
「御子神も竹久のことを知っているのか?」
「あ、いや直接は知らないけど、吉野さんが野球やってた時の後輩らしい」
「ええ? 吉野部長、野球やってたの?」
口調や物腰の柔らかさから、ずっと文化部なのかと思っていた。
吉野はよほど体調が悪いのか、こくんと首を動かしたが何もしゃべろうとしない。
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