5-(3) それぞれに見える世界

7/10
前へ
/370ページ
次へ
「友哉……」  友哉の肩を抱く腕に、知らず力が入る。  なんでだ?   こんなおぞましいものを見て、なぜ友哉は平気そうなんだ? 「あきら? なんでそんなに緊張しているんだよ? ほら、竹久だよ、めちゃくちゃ野球がうまかったやつ」  俺はごくりとつばを飲んだ。 「友哉には、どう見えているの?」 「どうって……あきらにも見えるんだろ?」 「俺は……幽霊が怖いから直視できなくて……」  本当は腹の切り裂かれた断面や、腸みたいなものが長く伸びている様子や、そこに群がっている何本もの黒っぽい手まで、全部くっきり見えている。  けれど、友哉の反応からして、俺と同じものを見ているとは思えない。 「あきらって幽霊苦手だったっけ? でもこいつぜんぜん怖くないぞ。ちょっとぼやけてはいるけど、生きている時とそう変わりない姿だし」  生きている時と変わらない姿?  ではこの腹から垂れるグロいものはやっぱり見えていないのか? 「友哉、竹久の足は……見える?」 「足? ううん、足は見えない。やっぱ幽霊だから?」 ―― あれほんとだ。俺にも自分の足が見えない。  竹久本人までが、さも大発見をしたというように目を見張っている。 「見えないって、どんな感じに」 「どんなって、こう、ぼやーってしている感じ? 上半身はまぁまぁよく見えるんだけど」  では無残に引き裂かれて、ぼとぼとと内臓を落としながら、しかも無数の黒い手にしがみつかれているこの恐ろしいものが、友哉には見えていないのか。 「ちょっといいか? お前ら普通に話しているけど、竹久一球の幽霊が見えているってことなのか?」  ミコッチが胡散臭そうな顔をして、俺達を見てきた。 「見えてるよ。見たくもないけど」  吐き捨てるように言うと、友哉が顔を寄せてきて「そんな失礼なこと言うなよ」と囁いてくる。なんで竹久の幽霊にそれほど気を遣うのか。中学生の頃だって、あまり話したことはなかったはずだ。友哉と竹久の間に、俺の知らないつながりがあったのか? 「俺は竹久が見えて嬉しいよ。いや、死んで嬉しいってことじゃなくて、見えないより見えた方が嬉しいって意味で」 ―― 分かってるよ。 「御子神も竹久のことを知っているのか?」 「あ、いや直接は知らないけど、吉野さんが野球やってた時の後輩らしい」 「ええ? 吉野部長、野球やってたの?」  口調や物腰の柔らかさから、ずっと文化部なのかと思っていた。  吉野はよほど体調が悪いのか、こくんと首を動かしたが何もしゃべろうとしない。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加