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「竹久が死んだのはこの前の週末だったらしいんだけど、吉野さんは今日になって知ったらしくて……ここに来る前に踏切に花を供えに行ったんだ。そうしたら吉野さん、『ここから逃げないと』って急に言い出して、しかも頭痛と耳鳴りがするって」
ミコッチは話しながら友哉をじっとみつめた。目線が合わないことで友哉の目が見えていないことを実感したらしく、気まずそうに目をそらした。
「ええとじゃぁ、竹久は踏切で死んだのか? なぁ竹久、どうして死んだんだ。事故か?」
友哉は話しながら竹久の方に近づこうとするから、俺はぐっとその肩を押さえて止めた。
「あきら? そんなに警戒しなくても」
「ダメだ、近づくな」
竹久の内臓にまとわりついている気味の悪い手に触れてしまったら、何が起こるか分からない。友哉はすでに、魂の弱っている状態だ。
「俺は吉野さんから死因は自殺だって聞いたぞ」
ぐったりしている吉野の代りに御子神が答えた。
「自殺って、なんで? 希望の高校に行けたし、何もかもこれからだったろ?」
―― うーん。さぁ……なんでだろ? 気付いたら遮断機をくぐっていたんだよなぁ。
「気付いたらって、そんな」
―― 死にたかったわけじゃなかったんだけど。
「それってほんとに自殺なのか? 事故とか、もしかしたら誰かに」
「ちょい待って」
ミコッチがこちらに近づいて来る。その時に竹久の内臓を踏んだのだが、ミコッチにも竹久にもその自覚は無いようだった。ミコッチには霊が見えないし、霊にもミコッチが見えていない。
「なぁ、もしかして倉橋って、幽霊と普通にコミュニケーション取れてる?」
「あ、ああ、声も聞こえるから」
「はぁー、まじかよ。何にも見えないの、俺だけ?」
まったく何も見えず、まったく影響も受けないミコッチ。
気配を感じ取れるせいで、影響も受けてしまった吉野。
竹久の上半身の無事な部分だけが見えている友哉。
竹久の下半身のドロドロと、そこに群がる無数の黒い手まで全部見えている俺と雪華。
カオスだ。
見えるか見えないかだけの二通りだけならまだ分かりやすいのに、それぞれに見えているものが全く違っている。
雪華は友哉と竹久を見比べて、どうするべきか途惑っている。
俺はさっさと竹久を始末してしまいたい。
「竹久。死んだお前が何でここに来た? 何が目的だ」
友哉を庇うようにして睨みつけると、竹久は頭をかいた。
―― いやぁ、よくわからないんだけど、いつのまにかここにいてさ。
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