5-(3) それぞれに見える世界

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「では、なぜこの人にくっついているんだ?」  雪華が吉野を指す。  竹久の手は吉野の背中をつかんでいる。 ―― あれ、ほんとだ。なんでだろう? あれ、手が離れない。  幽霊本人にも取り憑いている自覚が無いとは、何だろうかこの状況、収拾がつかない。  俺は雪華を見た。 「雪彦おじさん、一番よく見えるのはおじさんだよね。どうしたらいいの」  どうにかしてくれと目で合図を送る。  雪華は軽く咳払いをすると、もっともらしい顔を作って俺達の顔を順に見た。 「この霊はあまり良くないもののようだ。放って置けば、こちらの人も死ぬかもしれない」 「吉野部長が? そんな!」  俺が大げさに驚いて見せると、友哉が俺の腕をぎゅっとつかんだ。 「吉野部長が死ぬ……?」 「ああ。悪い霊に取り憑かれている状態だ。だが、私の式なら祓うことが可能だと思う」 「狼に襲わせるんですか」 「生きているものに悪影響を及ぼすものは消してしまった方がいい」 「そんな」  これで式狼を使って、竹久もろとも下のドロドロも食べさせてしまえば終了だ。  少しでも友哉に危険なものは、早く消してしまいたい。 「叢雲、碧空」  雪華は指示を出そうと二匹を振り返った。 「待って下さい、雪彦さん!」  友哉が身を乗り出す。  テーブルにぶつかりそうで、俺は後ろから友哉に抱きとめた。 「ダメだ、友哉、危ない」  友哉はいやいやするように身をよじる。 「式狼で竹久を退治するんですか。そんなことやめてください」 ―― ええ、俺、退治されちゃうの?  竹久がびっくりしたような顔をする。自分の姿がどれほど不気味なことになっているのか、吉野にどんな影響を与えているのか、まったく分かっていないらしい。 「雪彦さん、他に方法はありませんか。えっと、成仏させてあげるとか、そういうことは出来ないんですか」 「いや、大賀見家は本来、拝み屋ではないんだが」 「でも……竹久は悪霊なんかじゃ……」 「だが実際に吉野君に取り憑いている」 「でも」 「どうして友哉はそこまで竹久を庇うの? 別にあいつと友達だったわけでも無かったよね?」  友哉は顔を伏せて、少し恥ずかしそうに口を開いた。 「竹久一球は……なんていうか、俺の憧れだったから」 ―― え、倉橋が?  竹久が驚いたように友哉を見る。 「憧れって何? 俺そんな話聞いたこと無いけど」 ―― 俺も初耳。つうか、あんまりしゃべったこともなかったような。 「えっと、そんなに大げさなもんじゃないんだ。でも、見かけるたびにいいなって思っていたから」 「いいなって? いいなって何?」
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