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雪華が呼び出した2匹を従えて踏切前まで戻る。通行人に聞こえないように、その場であと6匹を呼び出す。
「大雅、連翹、つゆくさ、朧、磯良、アレス」
6匹の式狼とつながっても、今のところ俺の体に負担は無い。
雪華がいうには、俺がもとから持っている力は雪華達より桁違いに大きいらしい。
不動産屋の駐車場は車三台分のスペースがあって、今は一台だけ停まっている。他の車が入ってくると面倒なので、早めに済ませてしまいたい。
俺が狼を出したのを確認すると、雪華は腕時計のコンパスをもう一度確認して東側を向いた。人差し指と人差し指、親指と親指を合わせて菱形を作り、そこから覗き込むようにして口を動かし始める。
踏切から不動産屋の駐車場までそれなりに距離があるが、耳を澄ませると、病院の時と同じように、あの詩のようなものを唱えているのが分かった。今まで意識していなかったが、俺は聴力もかなり良くなっているのかもしれない。
東の窓には春の庭、梅桃桜に沈丁花。
南の窓には夏の庭、あやめ、姫百合、金蓮花……
「わぁ……!」
友哉のあげる歓声が聞こえて来た。
「なんだこれ、すごい。嘘だろ……! 信じられない……!」
季節の庭が現れるたびに、友哉がはしゃいだ声を上げる。ミコッチの肩をつかんで背伸びをしたり、落ちてくる花びらに手を差し伸べたりして、嬉しそうにきょろきょろとまわりを見回している。その瞳はキラキラと輝き、頬はピンクに紅潮して、どれだけ興奮しているのか離れていてもよく分かった。
俺の目には現実世界の駐車場と、結界の作り出す庭が重なるように見えている。うっすら透けている庭も十分に美しいが、真っ暗闇にいる友哉にとって四季の庭は圧巻の景色なんだろう。
何も見えていないミコッチは途惑った顔で、はしゃぐ友哉を支えている。
四方に庭の結界が出来上がると、竹久の体に変化が起こり始めた。腹の下から垂れる内臓に群がっていた手という手が、躍るようにびくびくと痙攣し始めたのだ。
庭の美しさに見惚れている友哉と、きょとんとしているミコッチの背後で、雪華が俺の方に手を上げる。
俺も分かったというように片手を上げ返した。
何十本もの手が耐えかねたように、じりじりと竹久を離れて黒い靄の方へ戻って行く。肘までの手が指先を掻くようにして地を這っていく様は怖気を震う光景だが、それが何十本もよじよじと歩いていると滑稽に見えてくるから不思議だ。
俺は少し噴き出してから、大雅ら8匹の狼に命じた。
「さぁ、やっと出番だよー。あれ、まるっと全部食べちゃってー」
狼達は鼻歌でも歌いそうな感じで、トットットッと跳ねるように走り出した。
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