5-(4) 踏切に立つもの

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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  黒い靄が消えてすっきりとした空間を、8匹の狼が機嫌よく駆けてくる。あんなものを食べてよく腹を壊さないものだと思うけど、エネルギーとして吸収するのにキレイも汚いも無いのかもしれない。  俺が手を上げて合図すると、不動産屋の駐車場にいる雪華は四季の結界を閉じ始める。  結界が消えたのを確認して、急いで友哉のもとへ戻るとその瞳が赤く潤んでいて肝が冷えた。 「友哉? え、なに、どうしたの?」  ミコッチから奪うようにして友哉の手を取ると、泣き笑いの顔が俺を迎えた。たくさん泣いたみたいで目元は赤く腫れて、手にはハンカチを握っている。 「あんまりにも綺麗でびっくりして……ああ……」  感極まったように声を出し、滲んでくる涙を拭う。 「たった一瞬だったけど、視力が戻ったみたいだった」 「……そっか……」  目が見えなくなってからの友哉はずっと前向きで、出来るだけ自分のことは自分ですると言って楽しそうに努力を続けていた。一度もつらいとか苦しいとか恨みごとを言わなかった。  でも、この涙が見えないつらさの裏返しなのは俺にも分かる。結界の庭が光に満ちていればいるほど、いつも闇夜の中にいる自分を思い知ったに違いない。  熱くなった体温が指先から伝わってきて、つられるように俺の目も潤んでくる。 「そっかぁ、そんなに綺麗だったんだ」  気の利いたことが言えなくてもどかしい。俺にできるのは隠れて復讐をすることだけで、奪われた視力を戻してやることは出来ない。  自分の力不足が悔しくて、泣けてくる。 「また泣く。あきらは泣き虫だな」 「友哉だって」 「俺のは感動の涙だから良いんだよ」  友哉はハンカチを俺の手に持たせてから、ゆっくり頭を下げた。 「雪彦さん、ありがとうございました」  友哉の向いている方向は雪華のいる位置とずれていたが、雪華はわざわざそこまで移動してから口を開いた。 「君が望むなら、また何度でも見せてあげよう」 「はい、ありがとうございます……」  友哉が涙に濡れた顔でくしゃっと笑った。  俺は友哉に渡されたハンカチで自分の涙と友哉の涙を拭いた。 「友哉、もう帰ろうか」 「そうだな……」 ―― あのぉ。  忘れていた存在が話しかけてきて、友哉がびくっと振り返った。
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