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「あれ? 竹久? お前成仏しなかったのか?」
―― あはは。
気まずそうに幽霊が笑う。
内臓に群がっていた無数の手はすでに消えているのだが、竹久自身は最初と同じ存在感で吉野の背中にくっついていた。
―― いやぁ、俺もあんな天国みたいな庭を見せられて、てっきり成仏した気でいたんだけどさぁ。なんか、してなかったみたいなんだよな。
「ええ、じゃぁどうすんだよ」
―― どうすんだよって言われてもなぁ。
間抜けな幽霊が頭をかいている。
「とりあえず、吉野君から離れてもらえるかい」
―― おお? ほんとだ。まだつかんだままだった。
雪華の指摘に驚いて、やっと竹久が吉野の背中から手を離す。
すると、ふわっと竹久の体が浮いた。
「竹久?」
―― おわー、さすが幽霊、すげぇ体が軽い。
「そうなのか? 天国まで行けそうか?」
―― やってみる。
竹久は空気をかくように手を動かしたが、それ以上は登れないようだった。
相変わらず腹から内蔵が垂れているが、浮いたおかげで引きずってはいないし、もう血はボトボト落ちてこないから改善はしているようだが。
「なぁ、何がどうなっているか教えてくれよ」
ミコッチが焦れたように言った。
「竹久、成仏できず。そこで犬かきして天に昇ろうと間抜けな格好であがいている」
―― 久豆葉、言い方ぁ。
竹久の抗議の声に友哉がくすくすと笑っている。
吉野がぶんぶんと頭を振ってから、ゆっくりと立ち上がった。
「すぅー、はぁー」
両手両足を伸ばして深呼吸をする。
「あああー、開放感がすごいです」
「吉野さん、具合は?」
「御子神君、ありがとう。頭痛と耳鳴りは消えました。みなさん、ありがとうございました」
顔色の蘇った吉野が晴れやかに挨拶をする。
「ええと吉野さん、状況分かってる?」
「ええ、僕に竹久君が取り憑いたのを、離してくれたんですよね」
「吉野部長にも竹久が見えるのか?」
吉野は周囲に首を動かしたが、残念そうに首を振った。
「いえ、見えません。でも多分、ここら辺ですかね?」
―― そうです。ここです。ここにいます。
「そうですって言ってる」
友哉がうなずくと、吉野は竹久の方へ向き直った。
「竹久君……」
―― 吉野先輩、すいません。迷惑かけてしまって。
竹久は上半身だけで器用に礼をしたが、吉野には分からないようだった。
「吉野部長、竹久がすいませんって」
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