5-(4) 踏切に立つもの

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「あれ? 竹久? お前成仏しなかったのか?」 ―― あはは。  気まずそうに幽霊が笑う。  内臓に群がっていた無数の手はすでに消えているのだが、竹久自身は最初と同じ存在感で吉野の背中にくっついていた。 ―― いやぁ、俺もあんな天国みたいな庭を見せられて、てっきり成仏した気でいたんだけどさぁ。なんか、してなかったみたいなんだよな。 「ええ、じゃぁどうすんだよ」 ―― どうすんだよって言われてもなぁ。  間抜けな幽霊が頭をかいている。 「とりあえず、吉野君から離れてもらえるかい」 ―― おお? ほんとだ。まだつかんだままだった。  雪華の指摘に驚いて、やっと竹久が吉野の背中から手を離す。  すると、ふわっと竹久の体が浮いた。 「竹久?」 ―― おわー、さすが幽霊、すげぇ体が軽い。 「そうなのか? 天国まで行けそうか?」 ―― やってみる。  竹久は空気をかくように手を動かしたが、それ以上は登れないようだった。  相変わらず腹から内蔵が垂れているが、浮いたおかげで引きずってはいないし、もう血はボトボト落ちてこないから改善はしているようだが。 「なぁ、何がどうなっているか教えてくれよ」  ミコッチが焦れたように言った。 「竹久、成仏できず。そこで犬かきして天に昇ろうと間抜けな格好であがいている」 ―― 久豆葉、言い方ぁ。  竹久の抗議の声に友哉がくすくすと笑っている。  吉野がぶんぶんと頭を振ってから、ゆっくりと立ち上がった。 「すぅー、はぁー」  両手両足を伸ばして深呼吸をする。 「あああー、開放感がすごいです」 「吉野さん、具合は?」 「御子神君、ありがとう。頭痛と耳鳴りは消えました。みなさん、ありがとうございました」  顔色の蘇った吉野が晴れやかに挨拶をする。 「ええと吉野さん、状況分かってる?」 「ええ、僕に竹久君が取り憑いたのを、離してくれたんですよね」 「吉野部長にも竹久が見えるのか?」  吉野は周囲に首を動かしたが、残念そうに首を振った。 「いえ、見えません。でも多分、ここら辺ですかね?」 ―― そうです。ここです。ここにいます。 「そうですって言ってる」  友哉がうなずくと、吉野は竹久の方へ向き直った。 「竹久君……」 ―― 吉野先輩、すいません。迷惑かけてしまって。  竹久は上半身だけで器用に礼をしたが、吉野には分からないようだった。 「吉野部長、竹久がすいませんって」
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