5-(4) 踏切に立つもの

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「竹久君……。僕の方こそすみませんでした。これまでリンリンで何度もメッセージをやり取りしたのに、君が悩んでいたなんてこれっぽっちも気付きませんでした。僕はがんばれって人ごとみたいに応援するだけで、何の力にもなっていなかったんですね。許してください」 ―― 吉野先輩……。違います。俺、別に死ぬ気なんて無かったんです。確かに名門校へ入ったら、今までとレベルが違いすぎてビビりましたけど。でもほんのちょっと弱気になっただけで、これからも頑張っていくつもりだったんです。ほんとです。何で死んじゃったのか自分でも不思議で……何かに呼ばれたような感じで……多分、ちょっと魔が差したとかそんな感じなんで、先輩が気にすることじゃありませんよ。お花、供えてくれて嬉しかったです。  竹久が通訳しろと俺を見てくる。俺はふぅっと息を吐いた。 「魔が差して死んだだけだから気にすんな。花ありがとう、だって」 「あきら、省略しすぎだ。吉野部長、ええと竹久が言っているのは……」  友哉は丁寧に通訳してやり、吉野と竹久の会話を手伝っている。  俺は野球にも竹久にもあまり興味が無いので、ぼんやり人ごとのように聞いていたのだが、急に友哉が信じられないことを言ったのは聞き逃さなかった。 「竹久、俺に取り憑くか?」 ―― は? 「は? 友哉、何を言ってるの」  その場にいる全員が目を剥いて驚く。  友哉はさらに言葉を続けた。 「だって成仏も出来ずにこんな所にひとりでいるのは寂しいだろ。俺とあきらと雪彦さんは見えるし会話もできるから、うちに来れば話し相手が三人もいるしさ、俺は学校にも行ってないから多少具合が悪くなっても……」 「ダメだ、友哉。多少じゃすまない」  友哉は自分の体と魂が弱っていることを、まだよく分かっていない。 ―― そうだよ。吉野さんにくっついちゃったことも後悔しているのに。 「でも、竹久をひとりでここに置いて行きたくないよ」 「友哉君、それはいけない。君が犠牲になるのはおかしい」 「いえ、犠牲なんてそういうのではなくて」 「友哉がどうしてもっていうなら、俺に憑かせるケド」 「そんな、待って、あきら」 「俺の方が頑丈だから、その役目は俺の方がいいでしょ」 「ダメだ、あきらにはそんなことさせられない。俺のわがままに付き合わなくていい」 「どうして? 友哉の望みは俺の望みだ。体の丈夫な方がやればいいことだろ」
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