5-(4) 踏切に立つもの

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 まぁ俺に取り憑いたら、後でこっそり狼に喰わせて成仏したことにしてやるけど。  腹の内で密かに黒いことを思っていると、竹久は首を振った。 ―― 倉橋も久豆葉もサンキュ。その気持ちだけ受け取っておくよ。 「竹久」 ―― 俺はもう誰にも迷惑かけたくない。たまーにでいいから、また花を供えてくれ。それだけで、すごく嬉しいから。  竹久はスポーツマンの見本みたいに、ニカッとさわやかに笑った。  踏切に巣食っていた化け物は手当たり次第に獲物を探していて殺す相手は誰でも良かった。  竹久にしてみれば、ほんのちょっとした心の隙を突かれて奪われた命だ。深い理由など何も無くて、たまたまそこを通っただけで奪われてしまった人生だ。もっと泣き叫んで運命を呪って、絶望に黒く染まってもおかしくは無いのに。  理不尽でどうにもならないことを受け入れてしまう竹久の鈍感な強さは、どことなく友哉に似ているのかもしれないと思った。 「俺、また来るよ。何回でも来るよ」  友哉は竹久をまっすぐ見て言う。  いいよな、竹久はちゃんと友哉と目が合って。と、口に出そうになるのを俺は我慢した。 ―― うん……。生きている時に、もっと倉橋と話したかったな。 「これからだって、いっぱい話せる。絶対にまた来るから」 ―― 待ってる。  竹久はふわりと泳ぐように動いて、花の供えられている場所に浮かんだ。 ―― ここで待っているから。  俺は半分妖狐だが、霊にもあやかしにも詳しくはない。それでも、竹久はたいして時間をかけずに成仏するだろうなということは分かった。竹久は善人だ。良くも悪くも執着心が薄い男だ。吉野に対しても、友哉に対しても、自分の人生に対しても、もうあっさりと諦めてしまっている。  俺だったら理不尽な仕打ちには理不尽でやり返す。大好きな人から離れて大人しく待ったりしない。俺は死んでも友哉を離してやらない。俺はまったく善人じゃない。  自分の考えたことにハッとして、俺は友哉の目を見た。  だから友哉のきれいな目に、俺は映らないんだろうか。
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