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「じゃあ、またな」
友哉は少し浮かんでいる竹久に手を振った。
通りがかりの人が何だろうとそちらに目を向け、何も無い空間に首をかしげて行ってしまった。
俺は友哉の右腕をつかんで、自分の腕につかまらせる。
「帰ろう、友哉」
促すように歩き出すと、友哉は少し後ろを振り向いたけどちゃんと俺について来た。
車を停めてある有料駐車場までゆっくりと歩く。俺達の後ろから雪華、御子神、吉野もついてきていた。
段差の前で足を止めると、友哉も止まる。
「ここに10センチくらいの段差があるよ」
「了解」
俺が足を踏み出すと、友哉も段差につまずくことなくついてくる。
「初めて外に出たけど、大丈夫? 怖くない?」
「いや、竹久のことでいっぱいいっぱいだったから何も考えていなかった。やっぱ家の中と違って、あっちこっちから色んな音がするな」
車の走行音、歩行者の立てる足音や声、店先から流れる音楽やざわめき。
「そうだ。これから毎日散歩して歩く練習しようか」
「いいなそれ」
「もし幽霊を見たらすぐ教えてよ」
「怖いから?」
「そうだよ、めちゃ怖いよ」
俺の見えているものと友哉の見ているものの違いを先に把握しておかないと、どんな危険があるか分からない。俺にはそれが怖い。
有料駐車場が見えてきて、雪華が小走りで先に車まで行くと後部座席のドアを開けた。
「車についたよー。こっちがドアで、こっちが車の屋根。頭ぶつけないでね」
友哉の手を取って片手をドアに、片手を出入り口の上の部分に触らせる。
「分かった、サンキュ」
友哉が乗り込もうとするのを邪魔しないように、横から腕を伸ばして出入り口の上の所に手のひらでガードする。
ミコッチが観察するように俺と友哉を見て言った。
「息ピッタリだな」
「家の中では歩く練習してたんだ。初めての外にしては上手に歩けたでしょ」
「ああ、そうだな」
友哉の隣に俺が乗り込むと、その後からミコッチが入ってきた。雪華は運転席に、吉野は助手席に座った。竹久と悪霊がいなくなった分、来た時よりも車内がかなり広く感じる。
雪華がエンジンをかけて、ゆっくりと車を動かし始めた。友哉に振動が行かないように、丁寧に運転しているのが分かる。車に興味は無かったけど、見えない友哉と一緒なら公共機関より車の方が安全で自由度が高い。免許が取れる年齢になったら、すぐに取ろうと心に決めた。
「ねぇ友哉、俺、野球始めようかな」
隣に座る友哉に話しかける。
「何だよ急に」
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