5-(4) 踏切に立つもの

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 友哉のそういう生真面目なところはものすごく愛おしいけれど、それは俺の望みとは掛け離れている。この先も二人一緒にいるためには子供みたいに甘えてみせるだけではダメだということが分かった。もっと決定的な『何か』が無いと、友哉は俺から離れようとするだろう。  いきなり失明してしまって、両親とも離れてしまって、頼れる相手は俺だけなんだから俺を頼ってくれればいいのに友哉はそうしない。自分よりも俺の将来を優先して考えるのはすごく友哉らしいけれど、もどかしくてたまらない。  俺が執着と嫉妬と独占欲を前面に出して、痛いメンヘラになって追いつめるという手もあるにはある。友哉を物理的に手に入れるだけなら拘束して監禁してしまえばいいんだし、今の俺なら誰に咎められることも無くそれを実行できるだけの金も力もある。  でも、俺が欲しいのはきれいなままの友哉の、きれいなままの愛情だ。  幼馴染で親友で兄弟である久豆葉あきらに向ける友哉の純粋な愛情だ。  友哉の心の中にわずかでも俺に対する嫌悪や恐怖が混ざってしまったら、それはもう俺の欲しい感情じゃない。  何かいい手はないかな。  自然で、無理がない形で、今まで通りに兄弟として生きていく方法。  友哉は依存心が薄いから、俺が働いて養うという形はとらない方がいいかもしれない。  むしろ俺の弱いところをみせて、友哉に自分から『あきらと一緒にいてあげなくちゃ、そばにいて支えなくちゃ』と思ってもらう方がいい。  考え事をしている内に、隣の友哉はすぅすぅと寝息を立て始めていた。  目の光を失ったあの時から友哉は疲れやすくなり、よくうたた寝するようになった。体も魂も弱っているからだと雪華は言っていた。  友哉の体に手を回して俺の肩に寄り掛からせる。優しい体温がじんわりと伝わってくる。 「倉橋は寝たのか」  ミコッチが小声で聞いてくる。 「うん」 「そうか……」 「何だよ、また友哉を解放しろとか言うのか」 「いや」  何かまた正論をぶつけてくるのかと思ったけど、ミコッチは身を乗り出して友哉の寝顔を覗き込み、ポソリと言った。 「何が正解か、俺にも分からなくなった」 「どういう意味?」
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