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『ヨシノ 8月1日 22時43分 もう寝てしまいましたか。御子神君が突然待ち合わせ場所を変更したいとのことで連絡しました。駅近くのカフェの期間限定スィーツが食べたいという理由だそうです。倉橋君、目が見えなくてもそのまま普通高校に通い続けて、大学に入って、企業に就職する人もいるそうです。この地域の福祉やボランティアのサポートなど、少し調べましたので明日お話したいです』
吉野のメッセージは理路整然としていてすごく吉野らしい。
俺は次のメッセージを読もうとして、少しためらった。
雪彦さんは何をどう言って説得したのか、俺の両親は俺とあきらがここにいることを『快く』了承したらしい。
でも、母さんからはしょっちゅうメッセージが来るようになって、俺はそのたびに、会いたいという感情と生理的な嫌悪感が同時に湧いて複雑な気分になってしまう。
「ん-、朝ぁ?」
部屋の中であきらの寝ぼけた声がする。
スマートフォンの音量はだいぶ小さくしているのだが、起こしてしまったみたいだ。
「ごめん、寝ていていいぞ」
「ううん、一緒に起きるぅー」
子供っぽい口調の後に、大きなあくびが聞こえた。
俺はホームボタンを押してからサイドボタンを押す。カチッと画面の消える音がした。枕元にスマートフォンを置いてから、あきらの方へ顔を向ける。
「前にも言ったけど部屋を分けないか? いつも起こしちゃうし」
「やだ」
「やだって、お前」
「友哉と一緒の部屋がいい。また幽霊が出たらチョー怖いじゃん」
「幽霊なんてそうそう出ないよ」
「出るよー。竹久の後に何人見た?」
「え? そうだな、ええと……何人か見かけたけど、話をしたのはコンビニ前のサイトウさんと、三乃峰駅にいたトクダさんと、あと公園で会うひばりちゃんの三人だけだよ」
「一ヶ月も経たないうちに三人って」
「でも、この家には出ないだろ。狼がいるから」
「そうだけど、もしもってことがあるだろー」
「大丈夫だよ。もしもがあっても、きっと怖くない」
「それはたまたま、運よく、今まで怖い幽霊に当たらなかっただけでさー」
相変わらずあきらは幽霊を怖がっている。でも、俺はこの一ヶ月でだいぶ幽霊というもののことが分かってきたと思う。彼らはただ寂しいだけだ。誰かに悲しい気持ちを聞いてもらいたいだけで、悪さをするわけじゃない。
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