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「ひとりの部屋で寝る方が寝不足になっちゃうよー」
「一緒だと毎日早起きだぞ」
「オッケー、早起き上等!」
「上等って」
「俺もそんなに遅くまで起きていないよ。友哉が早すぎるんだ」
目が見えなくなってから常に緊張して過ごしているせいか、俺はかなり疲れやすくなってしまった。夜は9時過ぎまで起きていられないし、昼も気を抜くとすぐにうとうとしてしまう。
「そっか。じゃぁとりあえず布団畳む前にシーツはいじゃって。今日、洗い方を教えてもらうんだ」
「洗い方? 洗濯機に放り込むだけじゃないの?」
「シーツの生地によってコツがあるんだって」
「ほー、さすがプロ。んじゃついでに俺が布団干すよ。この前、友哉重さでよろめいていたし」
「あ、あれは、ちょっとバランス崩しただけで」
「分かってる。でも、俺の方が大きいんだし、いっぱいこき使っていーよ」
バサバサと布を動かす音がしてくる。
俺も自分の敷布団からシーツを取ろうとして、ふと目の端に銀色の影が映るのに気付いた。
「あ、銀箭」
「またかあいつ」
庭の方から近づいて来る狼と目が合う。途端にすごい勢いで叢雲と碧空が飛び込んできて、俺の前に立ちふさがった。
あきらも近付いて来て俺の肩を押さえてくる。
「おい、お前! いい加減友哉につきまとうのをやめろ!」
銀箭はあきらの声が聞こえていないかのように、俺をまっすぐにみている。こちらに近づきたいようなのだが、叢雲と碧空がそれを許さない。
「なぁ、銀箭には敵意は無いみたいだし、そんなに警戒する必要は無いんじゃないか」
「銀箭は叢雲や碧空みたいな式狼じゃない。今は自由意思で動いているただの魔物なんだよ。何をするか分からないだろ」
「でも、あの目。何か俺に言いたいことがあるんじゃないかな」
「銀箭はあの時の呪詛に使われた式だ。もしかしたら呪詛を破った友哉を恨んでいるのかもしれないし、友哉の耳を食いちぎって味をしめたのかもしれない。おじさんがそう言っていただろ?」
「うーん、でも、今の銀箭に危険は感じないし」
「友哉は無防備すぎるよ」
「でも……あ、行っちゃった」
俺達が話している内に、銀箭は諦めたようにくるりと尻尾を見せて去って行った。
「はい、シーツ」
頭の上からばさりとシーツを投げられる。
「わ、あきら?」
障子が開けられる音がして、ん-、とあきらが声を出す。多分、伸びをしたんだろう。
「友哉、今日めっちゃ天気良いよー。洗濯ものすぐ乾くね」
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