5-(6) 公園に浮くもの

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 屋敷から俺の足で歩いて10分くらいの所に、けっこう広い公園がある。  通称パンダ公園。  大きな桜の木と、小さな銀杏の木があって、滑り台とブランコ、ジャングルジムという定番の遊具があって、ベンチは三か所あって、真ん中にはパンダの形のオブジェがあり、その胴体がくりぬかれたようにトンネルになっている。らしい。  俺は見ることが出来ないから、この情報は全部あきらから教えられたものだ。さらに時計の設置されたポールと、ペンギンの形の水飲み場と、そんなに汚くはないトイレまであるらしいから、なかなか設備の充実している公園だが遊んでいる子供の声は聞こえてこない。  俺はそのパンダ公園に、このところ毎日のように通っている。  パンダ型のオブジェの中で死んでしまった女子中学生に会うためにだ。 ―― とーもーやー!  俺の足が公園に一歩入ったとたんに、ピンクのツインテール女子がひゅーんと飛んで来て抱きついてくる。 「わ、ひばりちゃん」 「あ! こらブス、友哉にくっつくな!」 ―― あきらうるさい。友哉ひとりで来ればいいのにー。  ひばりちゃんが口を尖らす。 「あはは、ごめん。まだひとりで歩くのは無理かな」 ―― っそか、目が見えないんだよね。でもひばりのことは見えてるんでしょ。 「うん、ひばりちゃんのことは見えるよ」 ―― やったー、ひばりは特別だ―!  ひばりちゃんは空中でくるんと一回転すると、今度は俺の首にしがみついてきた。といっても女の子の手や腕の感触はまったく無くて、少しひんやりとするだけだ。 「友哉、日陰のベンチに座ろう。スポドリあるよ?」 「ああ、ちょっと飲みたいかも」 「オッケー」  あきらに導かれてベンチに行く。 「ここが背もたれ、こっちが座面」  右手を背もたれに、左手を座面に触らせてくれるので、俺は自分でベンチに座った。帽子を取って、それで顔をあおぐ。 「あちー」  隣に座ったあきらがリュックをおろしてファスナーを開ける音が聞こえてくる。 「はい、まだ冷えてるよ」 「サンキュ」  渡されたペットボトルの蓋をひねる時、これも開かなかったらどうしようかとちょっと緊張した。でも、それほど頑張らなくても開いたのでホッとしながら一口飲んだ。  周りを旋回していたひばりちゃんが俺の頭にくっついてくる。 ―― あー、友哉は今日もいい匂―い。  顔を至近距離に寄せてきて、うっとりとしたように目を細めた。ひんやりと冷気が顔を撫でる。
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