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「離れろクソガキ、友哉が風邪ひくだろ」
――うっせーあきら。デートの邪魔すんな。
ひばりちゃんはあきらの声がする方に、足をゲシゲシと動かしている。
「やめろバカ、パンツ見えるぞ」
元気いっぱいに暴れる女の子につい噴き出してしまう。
「あきらにこんなことする女の子、初めて見たな」
「友哉がモテてんのも初めて見た」
「う、それを言うなよ」
―― えー、なんで? 友哉の方がめっちゃきれいなのに。
「ありがと、お世辞でも嬉しいよ」
―― お世辞じゃないよー。こんなにきれいに光っていて、いい匂いのする人に初めて会った。ひばりが生きていたら、絶対友哉と結婚したのにー。
「友哉にも選ぶ権利はあるぞー」
「いやいやものすごく光栄です。ひばりちゃんみたいな可愛い子にそんなことを言ってもらえて」
―― えへへ。ひばりかわいい?
照れたように笑うひばりちゃんは、本当にかわいいと思う。
「可愛いよ。幽霊に言うのも変だけど、元気になって良かった」
―― うん! 自分でも変だと思うけど、ひばりすっかり元気になったよ。
初めて彼女を見たのは夏の初め、体中あざだらけで頭から血を流してトンネルの中で丸まっていた。あまりにひどい状態の女の子にびっくりしてしまって、俺は救急車を呼ぼうとしてしまったくらいだ。
まぁ、すかさずあきらに突っ込まれたけど。友哉の目に見えているならもう死んでるだろって。
その後、あきらが調べて教えてくれた。ひばりちゃんは二年前の夏休み中にここで亡くなっている。母親の再婚相手に虐待を受けていて、その日はひどい暴力を受けて必死で家から逃げ出したらしい。行く当てもなくこの公園まで走ってきてオブジェのトンネルの中に隠れたが、殴られた時に頭を打っていたせいで意識を失い、誰にも気付かれないまま亡くなってしまったそうだ。
遺体を見つけたのは翌日遊びに来た子供達で、それ以来変な噂が立って、ここに遊びに来る子供はほとんどいなくなってしまったらしい。
「ますます可愛くなったね、ひばりちゃん」
不思議なことにひばりちゃんは会うたびに元気になっていった。傷は治り、あざは消え、汚れていた髪も服も徐々に綺麗になっていった。
―― 友哉が治してくれたからだよー。
「俺は何もしていないよ」
―― 友哉のそばにいて、いい匂いの空気を吸うとふわーって体が軽くなるの。痛いことも嫌なことも少しずつ消えていく感じ。友哉の匂いは特別だよ。すごーくいい匂いなの。
「俺、いい匂いするか? シャンプーとか全部あきらと同じなのに」
くんくんと自分の腕のあたりを嗅いでみるが、Tシャツから柔軟剤の匂いがするだけだ。
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