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ひばりちゃんが隣のあきらのいる方に鼻を寄せ、すーっと息を吸い込む。幽霊も息をするんだなぁと不思議な気持ちで見ていると、ひばりちゃんは思いっきり顔をしかめた。
―― うえー、あきらはすっごく臭い。けもの臭い。
「うるせー、誰が獣じゃ」
獣? もしかして狼の気配を感じるんだろうか。
俺はあきらからそんな匂いを感じたことはないけれど。
「あ、でも、確かに友哉はいい匂いかも」
「え、なんで? ちょっ、嗅ぐなよ」
あきらが頭の近くでふんふん嗅いでいるのが分かって、俺は体をよじった。
「男の体なんて汗臭いだけだろ」
「ううん。ひばりの言うことがちょっと分かる。友哉に近づくと息がしやすい。空気が澄んでいるっていうか、清らかっていうか」
「なんじゃそりゃ。マイナスイオンでも発生しているのかよ」
「そうかも。人間空気清浄機だ」
「まじか」
「まじまじ」
「自分じゃいい空気なんて感じないけどな」
―― ひばりは友哉の匂い大好きー!
ひばりちゃんがくるくると頭の上で回る。
「そっか、ひばりちゃんが喜ぶなら良かった」
「俺も俺も」
「ああ、あきらもな」
ひばりちゃんは、二年前に死んでからずっとオブジェのトンネルの中から出ることが出来なかったと言っていた。今年の夏に俺達と話すようになってから、次第にトンネルを出られるようになり、徐々に歩けるようになり、今では空中を自由自在に飛べるようにまでなった。でも、やっぱりこの公園からは一歩も出られないという。
だからひばりちゃんが話してくれることは、子供の頃の思い出か、この公園で見聞きした出来事だけしかない。母親が再婚してから死ぬまでのことはあまりはっきりとは思い出せないらしい。
―― この前ね、良太がここに来てくれたの。お花持って。
良太というのはひばりちゃんの話に何度も出てくる同級生だ。幼馴染らしい。
―― ひばりは良太のそばまで行って、良太、良太って何度も呼んだんだけど、寒い寒いって言ってすぐに帰っちゃった。
霊を見られなくても気配を感じる人は意外に多いらしい。でもそれは寒気などの不調として表れてしまうので、霊の想いや寂しさまではほとんどの人に気付いてもらえない。
「そうか……。残念だったね」
―― 良太、前に来てくれた時より背が伸びてた……。
「そうか」
―― あーあ、なんかやだな。良太は学校行ってさー、友達と遊んでさー、楽しいこといーっぱいあってさー、あーあー、ひばりはなんかやだなー。
「そうか、なんか嫌なのかぁ……」
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