(3) 窓を叩くもの

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「大雅につかまっといてね」 「分かった」  大雅を寄り添わせてから友哉のそばを離れ、俺は壁のリモコンのボタンを押した。  ウィー……ンと小さな稼働音がして、涼しい風が流れ始める。 「横山さん、近田さん、尚美さん」  友哉が三人に声をかけているが、反応は無い。  さっきまで女子高生達がさんざん大きな声を出していたのに、まったく反応しなかったことからも、こっちの声が聞こえていないことが分かる。  俺は三人を観察した。  ここはまるで平凡な家庭の、平凡な朝の風景だ。  近田信夫は椅子に座って新聞を広げている。  近田尚美はテーブルに料理を並べ、トーストにバターを塗っている。  横山玲音は向かい側に座ってニコニコとそんな二人を見つめている。 「俺の声が聞こえませんか? 近田さん、どうして花梨さんと一緒にいなかったんですか? どうして横山さんと親子みたいにテーブルについているんです?」  友哉の声を横に聞きながら、俺は周囲を警戒する。この場に巣食う怪異は精神的に嫌なところを突いてくる。次に何をしてくるのか分からない。  俺はふと、窓の外に気を引かれた。  ちりっと何かが俺の神経に障った。  何かが気にかかる。  何だろうか。 「あ……」  赤いもの。  窓の外、田んぼの真ん中に、くすんだ赤の小さな鳥居が見える。嫌な予感を覚えながら目を凝らす。古くて手入れのされていない、大人は屈まないと通れないような小さな鳥居だった。それはこの部屋の窓からちょうど真正面を向いていて、その位置関係が何だか気になる。  幽霊なら……友哉の目に見える幽霊なら、何も怖くはない。それは死んでしまったというだけで人と同じように思考するし、人と同じような感情があるから。  だが、この部屋の元凶は幽霊案件じゃなさそうだった。  鳥居の周囲には今のところ怪異らしいものは見えないが……窓の外を見つめている内に、俺は低い山の中腹にも小さな赤いものを見つけてしまった。  人間よりずっと視力が良い俺でも、さすがにこの距離ではその赤いものが何かははっきりとは分からない。とても嫌な感じがするからあまり確かめたくはないが、確かめるしかない。  俺はスマートフォンを出してカメラアプリを起動した。山を画面のフレームに入れて、親指と人差し指を広げるように滑らせてどんどん拡大していく。  そこに見えてきたのは……。
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