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生きている者が成長するのは当たり前だとか、大事な幼馴染ならその幸せを願ってやれとか、正論や説教はあまり役に立たない。ひばりちゃんも自分でよく分かっていて、それでも言葉にせずにいられないのだから。
「寂しいね、ひばりちゃん」
俺は、触れないひばりちゃんの頭のあたりで、撫でるようにゆっくり手を動かした。
ひばりちゃんは猫みたいに目を細める。お互いに触っている感覚も触られている感覚もないけれど、ひばりちゃんが嬉しそうだから俺も嬉しい。
ひばりちゃんが目を開けてニコニコと俺を見る。寂しい気持ちは少し薄らいだみたいだ。
―― そういえばこの頃ね、光るブレスレット付けている人がよく来るよ。
「光るブレスレット? そんなの流行っているのか?」
「いやー、俺は見たこと無いけど。それって蛍光? 電飾? なんで光るの?」
―― 分かんないけど友哉と似ている光だったよ。聖なる光。
「ふはっ、聖なるってひばりちゃんの目に俺はどう映っているんだ?」
―― 友哉はねー、大好きだった絵本の天使さまみたいなんだよー。
「「天使?」」
俺とあきらの声がシンクロする。
「いや俺男だぞ」
「天使って性別無いんじゃなかった?」
「そうなのか? でも天使なんて俺のガラじゃないだろ」
「ううん、そうでもないかも」
「ええ」
「友哉が天使かぁ。ひばりちゃん鋭い。意外と本質を言い当ててるかも」
―― でしょー。
「はぁ、そう言われて俺はどんなリアクションとったらいいんだ?」
「リアクションしなくていいよ。友哉はそのままで天使だし」
―― 天使だし。
「二人してからかうなよ」
「うーん、友哉に似た感じのブレスレットって、つまり魔除けの類いかな」
「なんでそうなる」
「聖なる天使だから?」
「まだ言うか」
―― でも友哉には魔除けの力は無いよね。
「そりゃ無いよ。俺は普通の人間だ」
―― あきらみたいなのに取り憑かれちゃっているしねー。
「は? 誰が取り憑いているって?」
「あはは、なんでひばりちゃんはあきらを嫌がるの?」
―― だってあきらは絵本の悪魔に似てるし。
「「悪魔」」
また声がシンクロしてしまい、俺とあきらは爆笑した。
俺に似た天使と、あきらに似た悪魔の絵本か。どういう内容なんだろう。
「へぇ、その絵本見てみたいな。いや、見ることは出来ないんだけど」
「あ……うん」
さっきまで笑っていたのに、あきらは急に困ったように黙ってしまう。これぐらいのことは笑い飛ばすか聞き流してくれればいいんだけど、あきらは俺の目のことをまだ吹っ切れていない。
俺は手に持っていたスポーツドリンクをこくんと飲んだ。さっきよりちょっとぬるくなっていた。
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