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5-(7) 襲撃
「そろそろ帰ろうか」
俺の手からペットボトルを取って、あきらがリュックにしまい始める。
―― もう帰っちゃうのー?
「わがまま言うな。天使さまは多忙なのです」
「天使じゃないけど、午後も出掛ける予定があるんだ。ごめんねひばりちゃん、明日また来るよ」
―― 今度は友哉ひとりで来てー。
「う、うーん、まだ白杖の練習もしていないし、あきらがいないと無理かなぁ」
―― じゃぁしょうがないかー。ひばり、友哉が来るのをいい子で待ってるね。ついでにあきらも。
「へいへい、俺もついでに来るよ」
―― うー、名残惜しい。もう一回匂い嗅ぐー。
ひばりちゃんは俺を抱きしめるようにくっついてきてから、ふわりと浮き上がった。
―― あきらー、友哉をいじめんなよ。
「は? いじめないし、いじめたことも無いし」
「そうだよ、ひばりちゃん。いじめられたことなんか無いよ」
―― そうかなぁ?
「何だその疑いのまなざし」
―― えー、じゃぁさ、なんであきらは友哉を縛っているの?
「しばってる?」
「はぁ? 俺は縛ってなんかない! 友哉、違うから! 俺そんなことしてないから」
あきらが腕をぎゅっとつかんでくる。
「何を焦ってるんだよ。目が見えなくても縛られてりゃ分かるっての」
「う、うん、そうだけど」
「ひばりちゃん、俺は縛られてなんかないよ」
―― そうなの? でも二人が鎖みたいなものでつながっているのが見えるよ。
「つながっている? 何か見えるか?」
自分の体のまわりに目をやっても、暗い視界には何も映らない。
「ううん、何も無いけど」
「だよな」
―― 悪魔が天使を捕まえてるんだよ。
俺は首を傾げた。
まだ絵本のことを話しているんだろうか。
「ひばりちゃん、俺は捕まってなんかないよ。あきらはいつも優しいし、俺は毎日助けてもらっているんだ」
―― ほんとー? あきら優しい?
「うん、すごく優しいよ。子供の頃からずーっと一緒で、一回もケンカしたこと無いし」
しょっちゅう軽口を言い合うけど、本気で仲違いしたことは一度も無い。俺とあきらは互いに誰よりも近い存在だ。
「大丈夫だから、心配しないで」
―― 分かったー。あきら、友哉をいじめたら化けて出てやるからなー。
「もう化けてるじゃん、幽霊なんだから」
あきらに言われて、ひばりちゃんはきょとんと目を丸くした。
―― ほんとだー。もう化けてたー。
「あははは、じゃぁね、ひばりちゃん」
立ち上がって、手を振る。
―― うん、絶対絶対、また来てね。
ニコニコと手を振っていたひばりちゃんが、ふと手を止めた。
―― あれ? ブレスレットの人達、また来てる。
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