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母さんからのメッセージに母さん自身の死亡のニュースが添付されていたのか?
これはいつのニュースだ?
病院で何があったんだ?
何が何だか分からなくて混乱して呼吸が乱れる俺の耳に、走るような足音があちこちから聞こえてくる。顔を上げると小さな点々が周囲に広がっていくのが見えた。
あの光はひばりちゃんの言っていた光るブレスレットなのか?
ブレスレットを身に着けた人が、数十人も走っているのか?
あきらが俺の肩を抱くようにして手を回してくる。
「友哉、逃げよう」
「逃げるってどうして? いったいどこに?」
「とりあえずここから出よう。大雅! 連翹!」
あきらの呼びかける声に対して、いつものように狼が出てこない。
「琥珀、翠玉、磯良!」
あきらは声を張り上げるが、それでも狼の姿が無い。
「式狼が呼び出せない?」
あきらの途惑った声が聞こえた直後、強い刺激臭が鼻を突いて俺は咳き込んだ。
「なんだこれ。煙?」
あきらもゲホゲホと咳き込みながら、俺の肩を押して進み始める。
―― やだ! やだ何これ、怖い!
ひばりちゃんが叫んで飛んでいく。
「ひばりちゃん?!」
「パンダの中に避難した。友哉、俺らも逃げないと!」
ビィィン、と何かの弦をはじくような音が聞こえた。
あきらの体がビクッと跳ねる。
さらに四方八方からビィィン、ビィィンと不気味な音が聞こえてくる。
またあきらの体がビクビクと揺れる。
「あきら? どうした、あの音は?」
あきらがハッハッと息を吐く。
「弓だ……」
「え、弓?」
「弓の弦を鳴らしている」
弓?
こんな住宅街の公園の中で?
「だってあれ、ひとつじゃないぞ。十以上の音が重なって聞こえる」
「あれはきっと魔除けの弓だ。囲まれてしまった……」
「囲む? 俺達を? どうしてっ……げほ、げほ」
煙を大きく吸い込んでしまい、俺はむせた。あきらがハンカチを渡してくるから、それで鼻と口をふさぐ。
「は……憑き物筋の家が拝み屋を雇うなんてな」
つきものすじ? 拝み屋?
あきらの声がいつもと違って低くお腹に響いて来る。
「あきら、いったい何が」
「大丈夫。友哉は……げほっ……絶対に、俺が守るから」
刺激臭に涙が出てくる。
あきらの声も苦しそうだ。
「やっぱり大賀見家の奥様なのか?」
「奥様……? ああ、そうかもね……」
あきらは軽く咳き込み、また低い声で言った。
「魔物を使役する家が、魔物を祓う拝み屋を使うなんて、なりふり構わずってやつらしいな」
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