6-(1) 魔物祓いの女

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 何だこれ、ちょっと面白いな。  俺がのんきにそんなことを考えた時、警察への通報を諦めた友哉が俺の腕を押さえて前へと進み出た。何かを決意したような顔で片手を広げて大きな声を出す。 「やめてください!」  澄んだ声が響いた。 「あきらは当主争いには関係ありません! こんなことに何の意味もありませんから!」  胸がほわりと温かくなる。  友哉が俺を庇っている。  目が見えなくなっても、力が弱くなっても、友哉はまだ俺を守ろうとするんだ。 「友哉……」  俺の心は一気に友哉へ向いて、攻防を忘れてつい女から目を離してしまった。  ハッとして顔を上げると、同じように女も俺から目を離していた。  驚いた顔で友哉(・・)を見ている。 「あきらは前に出るな」  まるで盾になろうとするように、友哉は俺を後ろ手で押さえてくる。  女の目がさらに大きく見開かれた。  強い力を持つ者はすぐに友哉の特異さに気付く。そして、かつての雪華がそうだったように、どうしようもなく魅かれてしまう。 「でも……」  俺が体を動かそうとすると、友哉はぎゅっと腕を押さえてくる。本当は簡単に振りほどけるんだけれど、友哉が向けてくる愛情が嬉しくて俺の口元はつい笑ってしまう。  女は友哉を凝視して、次に俺の笑みを見て驚愕し、また友哉を切なげに見つめた。  魔物に魅入られた囚われの姫を見るような視線だ。 「相手のリーダーがどこにいるか分かるか?」  同情と憐憫の含まれた女の熱い視線になど気付かずに、友哉はそう俺に聞いてくる。 「……多分、友哉の正面」  友哉がぐっと正面を睨むと、女が(ひる)んだような顔をした。悪いもの、醜いものを見慣れた者ほど、きれいな友哉に心をつかまれる。  友哉がまた声を張り上げた。 「お願いですから、こんなことはもうやめてください! あきらは……」  友哉の声をさえぎるように、銀色の影がいきなり目の前に降りて来た。 真っ黒な友哉の目が見開かれる。  俺も驚いて声を出した。 「銀箭(ぎんせん)!?」  なんでここに?  この空間の中で、俺の式狼は一匹も出て来られないのに。  術者とつながっていない狼だからか?  銀箭はいきなり友哉の胸に首を突っ込んできた。 「な、なに?」 「おい、離れろ!」  俺が手を伸ばすより先に銀箭は一瞬で友哉から離れ、上を向いてウォーンと遠吠えを響かせた。  びくりと友哉の体が硬直する。 「やめろ、銀箭!」  俺は友哉を抱きすくめた。  俺達にとって遠吠えは恐怖だ。一乃峰で友哉の目を奪った大きな『あれ』がまざまざと脳裏によみがえる。  だが、銀箭の遠吠えは呪いでは無かった。  俺の内側から、応えるように何匹もの遠吠えが響く。 「うあっ」  ずるりと引き出されるようにして、俺とつながっている式狼が次々とその場に現れる。 「大雅! つゆくさ! 連翹(れんぎょう)も……」
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