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友哉がキョロキョロと視線を動かす。
銀箭が強制的に俺の中から式狼を呼び出したのか?
内側に触られたような不快さは一瞬で消え、俺のまわりに18匹すべての狼が勢ぞろいしていた。
「おのれ、弓を持て!」
女が叫ぶ。
雑魚の何人かが弓を持って女に走り寄る。
「薙ぎ払え!」
俺が叫ぶ。
狼達が高く跳ね、ぱっと周囲に散っていく。
弓を持つ者、松明のようなもので煙をいぶす者、数珠を掲げて祈る者、ことごとく悲鳴を上げて逃げ惑う。大人達があたふたとするさまが面白くて、悪役みたいに声を上げて笑いそうになったけれど、俺はぐっと我慢した。
「だめだ、あきら! 怪我をさせてしまう」
友哉が必死な顔で俺にしがみついてきたからだ。
「分かっているよ。誰も傷付けないようにするね」
その手をぽんぽんと優しく叩いてから、狼に命じる。
「数珠を壊せ! 弓を壊せ! 無抵抗なものは襲わなくていい」
数珠の加護を失ったものが次々と陥落して、俺をうっとりと見つめ始める。
不快な音と煙が消え、結界が消えたのが分かった。
「行こう、友哉」
友哉を抱きかかえようとその背中に手を回した時、『ビィィン!』と強く響いた弓の音に、体がぎゅーっとこわばった。
「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と祓いたもう!」
女の声がびりびりと全身を打つ。
またビィィンと弓の音が響く。
「あ……!」
体の力が抜ける。
「あきら!」
俺は友哉に寄り掛かるようにして、ずるずると膝をついた。
「大丈夫か!? どこか怪我を?」
友哉が俺の体を確かめるように触ってくる。
「天清浄とは天の七曜九曜二十八宿を清め、地清浄とは地の神三十六神を清め」
女の声が杭のように俺の全身に刺さってくる。
「うう、痛ってぇ……」
「どこが痛いんだ? 何をされた?」
何をされているのか俺にも分からない。
体中を激痛が走り、それに抗うように内側から何かが満ちてくる。
すがりつくようにその腕をつかむと、友哉は俺の名前を呼びながら体をさすってくる。
「内外清浄とは家内三宝大荒神を清め」
この女、あんなにぞろぞろと雑魚どもを引き連れて来ておいて、あれは全部ただの飾りだったのか。結局ひとりきりででも俺を祓えるんじゃないか。
「六根清浄とは其身其体の穢れを祓いたまえ清めたもう事の由を八百万の神等諸共に」
「うあ、あぁ……!」
「あきら!」
体の内側から何かが溢れてくるのを感じる。抑え込んでいた何かが、ぐるぐると暴れたがっている。
ビィィンと弓を鳴らし、女が一歩足を進める。
「小男鹿の八の御耳を振り立てて聞し食せと申す!」
「やめてください!」
友哉が悲鳴のように訴える。
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