6-(1) 魔物祓いの女

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 友哉がキョロキョロと視線を動かす。  銀箭が強制的に俺の中から式狼を呼び出したのか?  内側に触られたような不快さは一瞬で消え、俺のまわりに18匹すべての狼が勢ぞろいしていた。 「おのれ、弓を持て!」  女が叫ぶ。  雑魚の何人かが弓を持って女に走り寄る。 「()ぎ払え!」  俺が叫ぶ。  狼達が高く跳ね、ぱっと周囲に散っていく。  弓を持つ者、松明のようなもので煙をいぶす者、数珠を掲げて祈る者、ことごとく悲鳴を上げて逃げ惑う。大人達があたふたとするさまが面白くて、悪役みたいに声を上げて笑いそうになったけれど、俺はぐっと我慢した。 「だめだ、あきら! 怪我をさせてしまう」  友哉が必死な顔で俺にしがみついてきたからだ。 「分かっているよ。誰も傷付けないようにするね」  その手をぽんぽんと優しく叩いてから、狼に命じる。 「数珠を壊せ! 弓を壊せ! 無抵抗なものは襲わなくていい」  数珠の加護を失ったものが次々と陥落して、俺をうっとりと見つめ始める。  不快な音と煙が消え、結界が消えたのが分かった。 「行こう、友哉」  友哉を抱きかかえようとその背中に手を回した時、『ビィィン!』と強く響いた弓の音に、体がぎゅーっとこわばった。 「天清浄(てんしょうじょう) 地清浄(ちしょうじょう) 内外清浄(ないげしょうじょう) 六根清浄(ろっこんしょうじょう)と祓いたもう!」  女の声がびりびりと全身を打つ。  またビィィンと弓の音が響く。 「あ……!」  体の力が抜ける。 「あきら!」  俺は友哉に寄り掛かるようにして、ずるずると膝をついた。 「大丈夫か!? どこか怪我を?」  友哉が俺の体を確かめるように触ってくる。 「天清浄(てんしょうじょう)とは天の七曜(しちよう)九曜(くよう)二十八宿(にじゅうはっしゅく)を清め、地清浄(ちしょうじょう)とは地の神三十六神(さんじゅうろくじん)を清め」  女の声が杭のように俺の全身に刺さってくる。 「うう、痛ってぇ……」 「どこが痛いんだ? 何をされた?」  何をされているのか俺にも分からない。  体中を激痛が走り、それに抗うように内側から何かが満ちてくる。  すがりつくようにその腕をつかむと、友哉は俺の名前を呼びながら体をさすってくる。 「内外清浄(ないげしょうじょう)とは家内三宝(かないさんぽう)大荒神(だいこうじん)を清め」  この女、あんなにぞろぞろと雑魚どもを引き連れて来ておいて、あれは全部ただの飾りだったのか。結局ひとりきりででも俺を祓えるんじゃないか。 「六根清浄(ろっこんしょうじょう)とは其身其体(そのみそのたい)の穢れを祓いたまえ清めたもう事の(よし)八百万(やおよろず)神等(かみたち)諸共(もろとも)に」 「うあ、あぁ……!」 「あきら!」  体の内側から何かが溢れてくるのを感じる。抑え込んでいた何かが、ぐるぐると暴れたがっている。  ビィィンと弓を鳴らし、女が一歩足を進める。 「小男鹿(さおしか)(やつ)御耳(おんみみ)を振り立てて(きこ)()せと申す!」 「やめてください!」  友哉が悲鳴のように訴える。
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