6-(1) 魔物祓いの女

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「弓矢立つ、ここも高天原(たかまのはら)なれば、あつまりたまえ、四方(よも)の神々」 「やめろ! やめてくれ!」  友哉が叫び、覆いかぶさるように抱きしめてくる。  女が手を横に出し、お付きの雑魚が矢を渡すのが見えた。  女の目がギロリと俺を見る。 「千早振る、神の子供が立ち出でて、弓引くときは、魔物たまらじ」 「あぁ!」  おかしな呪文で体が痙攣する。  苦しいと同時に体の中心が熱い。  俺は死ぬのか?  友哉を、この女のいる世界に残して?  この女は友哉に魅かれている。  この女は友哉を欲している。  この女は俺を殺して友哉を奪うのか。 「あきら、あきら!」  友哉が泣きながらしがみついてくる。  「友哉……」  そんなことは許さない。  友哉は俺のものだ。  俺が死ぬ時は友哉も連れて行く。 「葦原や、ちはらの里に鳴く狐、昼はなくとも夜はな鳴きそ」  女が力いっぱいに弓を引き絞るのが見えた。  ギリ、ギリ、ギリ、と弓が鳴る。 「()()()()()()(なな)()(ここの)(たり)」  女の目に殺意が籠る。  ビリビリと電気が走る。  殺されても友哉は渡さない。  押さえていた蓋が開かれる。  閉じ込めていたものが外へ出てくる。  眠っていた獣が目覚める。 「エィー!」  ビィィンと弓が鳴り、ヒョーと空を裂いて矢が飛び出す。  俺は唸り声をあげて口を大きく開き、鋭い牙で友哉の喉笛に食らいついた。
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