(3) 窓を叩くもの

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「うわ、やっぱり鳥居じゃん」 「え、どうした?」 「えっとね……」  友哉の方に振り向こうとして俺は気付いた。  この部屋の大きな窓に赤いテープが貼ってある。窓枠をうまく利用して、鳥居の形を作っている。  山の鳥居と、田んぼの鳥居を結ぶ線はまっすぐこの部屋にぶつかり、そしてここにも鳥居があるのだから……。  ぞわりと寒気が走った。 「うわこれ最悪。自称神様案件じゃん」  この国は、八百万(やおよろず)の神様がいる国だ。神様と呼ばれるもの、神様を自称するものが無数に存在している。でも、神と一口に言っても、それは玉石混淆(ぎょくせきこんこう)、種々雑多、良い神もいれば恐ろしい神もいる。中にはひどく厄介な悪霊のようなものも……。 「あきら? 神様案件って?」  俺は友哉のそばへ走り寄った。 「友哉、あとはハルに任せた方がいいかも知れない。この部屋、土地の神様を招き入れる構造になってる」  コンコンと小さく窓が鳴った。  ぎょっとして振り向くと、小学生くらいの女の子が立っている。 「あけて」  他の部屋の住人だろうか?  白いブラウスに赤いジャンパースカートを着て、赤い帽子を被っている。 「あけて」  幽霊アパートの噂がある部屋に、人が入るのを見て不思議に思ったんだろうか。 「ねぇ、あけてよ」 「君、どこから来たの? ここは危ないからおうちに帰った方がいいよ」  俺が言っても女の子は不思議そうに窓から覗き込んでいる。 「あきら? 誰と話しているんだ?」 「えっと、住人の女の子かな? 窓の外に……」  俺はハッとした。 「え? 友哉は聞こえなかった? 女の子の声」 「女の子? いや、何も」  ぞわっと全身に鳥肌が立つ。  俺はがばっと友哉を抱き寄せた。 「おわ!」  友哉が驚いた声を出したが、かまわず後ろに庇って俺はもう一度窓を見た。  女の子は一見普通の子供のようで、どこもぼやけていなくて、生きている人間のようにしか見えない。 「あきら、また幻覚か?」 「そうかも……」  ゴクリとつばを飲み込む。  女の子は笑顔のまま窓ガラスをたたき始める。 「あけて、あけてよ」  女の子の小さな手が何度も何度も窓を叩く。 「あーけーてー」 「友哉、ここを出よう」 「え、でも」 「あけてー、あけてー、あけてー」  女の子が両手でバンバンと窓を叩き始める。
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