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『友哉、そんな戯れ言を聞かないで。全部嘘だ』
「ニュース映像を見たのであろう? いや失礼、聞いたのだろう?」
ぴくりと友哉の肩が動く。
「あのメッセージは、あなたが?」
「倉橋友哉。君は視力を失ってから一度でも両親と会えたか?」
「え……」
「会っていないはずだ。会おうとしても会えるはずがない。君の父親も母親も、久豆葉あきらによって殺されているから」
『嘘ばかり言うな!』
「倉橋友哉に嘘ばかり言ってきたのはお前じゃないか。久豆葉あきら」
確かに俺はあの日、何人死んでもかまわないと思っていた。俺にとって友哉以外の人間なんてどうでもいいと思っていた。でも、あの病院でも道切りのあった山の中でも、重傷者は出たが死人は出ていない。
この女はフェイクニュースまで作って、あの日起こった出来事に嘘を少し混ぜて来た。ゼロからつくった嘘ではないところが厄介なところだ。
「考えなさい、そして理解しなさい、倉橋友哉。そこにいる久豆葉あきらは化け物だ。君の両親を殺し、君の視力を奪い、君を捕えて離さないのは妖狐の血を引く魔物なのだ!」
友哉は不安そうな顔で黙っている。
両親から完全に引き離したのは失敗だった。たまに会うくらい許してやれば、こんな途方に暮れたような顔をさせなかったのに。
「倉橋友哉、君は私が救ってやる。この蓮杖ハルがその魔物から君を解放し、怖いものから一生守ってやるぞ」
女は友哉を見つめている。
俺も友哉を見つめている。
友哉は女も俺も映さない瞳で暗い宙を見つめていた。
「さぁ、こちらへ。その化け物と決別し、自分の足でこちらへ」
女が友哉へ手を伸ばす。
この女は状況を分かっていない。
友哉が俺を拒絶した瞬間に、自分の人生が終わることを。
友哉も状況を分かっていない。
自分の一挙手一投足に、この女や周囲で呆けている雑魚どもや俺の力が及ぶ範囲のすべての人間の命がかかっていることに。
友哉が俺に向ける愛情が少しでも濁ってしまったならば、俺は……。
暗い殺意がドロドロと内側に渦巻く。友哉が俺を拒んだならば手当たり次第に目につくものをすべて殺しに行こうと思う。友哉以外全部を壊して、友哉以外全部を消して……それから友哉をどうしようか、俺を嫌って怖がる友哉を、俺はその時どうするんだろうか。
「あきら」
友哉はふらふらしながら、こっちに体を向けて来た。
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