6-(2) 妖狐顕現

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「あきらの口から、言ってくれるか」  見えなくても相手の方へ顔を向けるのは、見えていた時の癖が残っているからか、懸命に声を聞こうとするからか。  友哉の顔は真剣だったけど、怖いとか嫌だとかいう負の感情は少しも見当たらなかった。 『友哉……』 「誰が何を言おうと関係ない。あきらが言ったことを俺は信じるから。あきらの口で言ってくれ、殺したのか?」  こちらへまっすぐ向けられる眼差し。  一瞬だけ、目が合ったような気がした。 『殺していない』  大賀見誠司は死んだけど。 『殺していないよ』  この後も、また何人か死ぬかもしれないけれど。 『俺は』  直接は。 『誰も殺していないよ』  安心したように、友哉は息を吐いた。 「分かった。俺はあきらを信じる」  そう言うと、フッと糸が切れたみたいに友哉は後ろへ倒れた。 『友哉!』  叫んで抱きとめたかったけれど、狐の前足ではうまく出来なかった。地面との間に前足を差し込み、シャツに噛みついてなんとか頭を打つのだけは避けられたけど、シャツは耐えられずに破けて友哉の体は不自然な姿勢で転がってしまった。 「倉橋友哉!」  女が悲鳴を上げて駆け寄ってくる。 『寄るな!』  友哉の上にまたがって、女を睨む。  びくん、と女の体が硬直した。 『これは俺のものだ』 「汚らわしい魔物め。ここからは遠慮はしない! 本気で滅してやるわ!」  女は人差し指と中指を立てて刀剣の形にかまえ、宙を切る。 「(てん)()(げん)(みょう)……ぎょう……じん……」  指が止まる。  女は驚いたように俺を見た。 「なぜ」  ぶるぶると指が震えて、もうかまえていられなくなったように女はくたっと膝をついた。 「ち、力が入らない……」 『俺に魅かれるでしょ』 「は……?」 『下僕(しもべ)になりたいでしょう』 「なにを、いって……?」 『命令されたくてたまらないはずだよね』 「そんな、そんなはずは……この蓮杖ハルが、たかが妖狐に……」 『大妖狐(・・・)なんでしょ』 「……そうだ、大妖狐だ……今までに見たどのあやかしより強く美しい……」  女の目がとろりと溶けてくる。 『せっかく人間のふりをしてあげていたのに、何で正体を暴いたりしたの? 俺が人間の範疇(はんちゅう)に収まっているままの方が、勝ち目があったと思わない?』  妖狐の本性をむき出しにされている今の方が、はるかに妖魔としての力は大きい。  人間だった俺を翻弄した女の術も、獣の俺にはほとんど通じない。 「そ……んな……」 『いい子だね。しばらく眠っていて』  俺が言うと、素直に女はパタリと倒れた。
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