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6-(3) 魔の穢れ
俺はもう女への関心を失って、友哉に目を下ろした。
首元の血は止まって見えるけれど、顔は青白く、呼吸は弱い。
『んんっ、もどれ、人間にもどれっ』
戻りたいと思っても、獣の姿から人の形へ戻ることが出来ない。
人間に戻らなければ友哉を抱きかかえることも出来ないし、電話をかけることも出来ない。
公園内を見回すと、法衣姿の雑魚どもはほとんどが地面に転がっていて、それらを追い回していた式狼は俺の命令を待つようにこっちを見ていた。友哉の体を抱き上げられないのは、俺も狼も同じだ。雑魚なんかに友哉を触らせたくはないが、背に腹は代えられない。
『おい、その中に動ける奴はいるか。こっちへ……』
言いかけた時、屋敷の方角から黒い車が猛スピードで近づいて来るのが見えた。運転しているのは雪華だ。公園への散歩からなかなか帰らない俺達を、というより友哉を心配して来たんだろう。
「友哉君!!」
思った通り、車から降りての第一声で雪華は友哉を呼んだ。
「友哉君っ、友哉君っ!」
雪華の声は動揺で裏返っていた。
俺の異形の姿についての言及はなく、雪華は友哉しか目に入らないかのように足を引きずりながら駆け寄ってくる。
「ああ、どうしてこんな……」
首元の牙の痕を見るとちらりと俺を責めるように見たが、すぐに友哉へ視線を戻した。呼吸と脈を確かめ、雪華は蒼ざめた顔で友哉を抱き上げた。
『どこに行く』
「三乃峰病院へ」
『あそこはダメだ』
「あの病院は大賀見の息がかかっているから融通が利く」
『ダメだ。大賀見家に関わりの無いところの方が安全だ』
雪華はハッとしたように周囲を見回した。四方に散開している俺の式狼と、そこら中に転がる法衣姿の男女数十人、そして俺達の正面で弓を手に眠っている女。
「これは……」
本当に友哉しか目に入っていなかったらしい。
「大賀見家による襲撃なのか」
『他に誰が襲って来るんだよ』
「分かった。違う病院へ行こう」
びっこを引きながらも早足で友哉を車まで運び、
「ドアを開けられるか」
と俺を見るので、爪をひっかけて後部座席のドアを開けてやった。
「その姿では乗れないぞ」
後部座席に友哉を横たえながら、雪華が俺に言った。
『戻り方が分からない』
「人間に戻るのを待ってはいられない。先に行くぞ」
雪華が焦ったように運転席へ行こうとする。
「待って! 待ちなさい!」
耳を貫くような金切り声に振り向くと、さっき眠らせたはずの女がよろよろと立ち上がるところだった。
『うわ、お前、もう復活したの?』
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