6-(3) 魔の穢れ

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「戻った……」 「うん、人の姿だ。服もちゃんと着てる」 「ほんとだぁ……変なの」 「あきら、怪我してないか」 「無い、よ……怪我なんて、無いよ……」  俺の目に映る友哉の姿が滲んで揺れて、 「ともやぁ……」  堰を切ったようにぼたぼたと涙がこぼれて来た。  どうして。なんで。分からない。俺は友哉を殺そうとした。俺は友哉を食べようとした。どうして。俺の望みは友哉と一緒にいることなのに。俺の望みは友哉を殺して食べることじゃないのに。怖い。俺は。なんで。俺は。 「な……何、これ、涙、止まらない」  しゃくりあげる俺の背中を、女がバシンと叩いてくる。 「いいから、さっさと車に乗りなさい!」  俺は言われるままに車に乗り込むと、友哉の体をぎゅっと抱きしめた。 「ともや、ともやぁ……」  涙が溢れて止まらない。すがりつく俺に友哉は驚いたようだったけど、あまり力の入らない手で俺の背中を撫でてくれた。 「うううー、友哉ごめんなさい、ごめんなさい……」  悲しくてつらくて苦しくて、わけがわからない。泣いても泣いてもおさまらない。 「泣くな、あきら」 「だって、俺、俺が友哉を……うっ、うっ」 「大丈夫だよ、急に自分の姿が変わって混乱したんだろ」 「ち、ちが……俺は、友哉を……」 「気にするな、あきら。俺はあんまり痛くないから」 「ごめんなさい、友哉、ごめんなさい……」  友哉の首からは血の匂いがした。それがやたらに甘くて、美味しそうで、怖かった。 「あきら……? さっきとはまるで別人だな……」  運転席から雪華が怪訝そうに見てくるが、俺は泣くのをやめられなかった。  自分でも何が起こっているのか分からない。  自分の心が制御できない。 「ほら、ぼうっとしていないで早く出発!」  女が当然のような顔をして助手席に乗ってきて、雪華が目をむいた。 「あなたもついて来る気か」 「いいから、車を出しなさい! 押し問答している時間がもったいない!」  女の迫力に押されるように、雪華が車をスタートさせた。  俺は友哉に抱きついたままずっと泣き続け、友哉は自分がひどい怪我をしているのに、俺をあやすようにずっと背中を撫で続けていた。
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