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「戻った……」
「うん、人の姿だ。服もちゃんと着てる」
「ほんとだぁ……変なの」
「あきら、怪我してないか」
「無い、よ……怪我なんて、無いよ……」
俺の目に映る友哉の姿が滲んで揺れて、
「ともやぁ……」
堰を切ったようにぼたぼたと涙がこぼれて来た。
どうして。なんで。分からない。俺は友哉を殺そうとした。俺は友哉を食べようとした。どうして。俺の望みは友哉と一緒にいることなのに。俺の望みは友哉を殺して食べることじゃないのに。怖い。俺は。なんで。俺は。
「な……何、これ、涙、止まらない」
しゃくりあげる俺の背中を、女がバシンと叩いてくる。
「いいから、さっさと車に乗りなさい!」
俺は言われるままに車に乗り込むと、友哉の体をぎゅっと抱きしめた。
「ともや、ともやぁ……」
涙が溢れて止まらない。すがりつく俺に友哉は驚いたようだったけど、あまり力の入らない手で俺の背中を撫でてくれた。
「うううー、友哉ごめんなさい、ごめんなさい……」
悲しくてつらくて苦しくて、わけがわからない。泣いても泣いてもおさまらない。
「泣くな、あきら」
「だって、俺、俺が友哉を……うっ、うっ」
「大丈夫だよ、急に自分の姿が変わって混乱したんだろ」
「ち、ちが……俺は、友哉を……」
「気にするな、あきら。俺はあんまり痛くないから」
「ごめんなさい、友哉、ごめんなさい……」
友哉の首からは血の匂いがした。それがやたらに甘くて、美味しそうで、怖かった。
「あきら……? さっきとはまるで別人だな……」
運転席から雪華が怪訝そうに見てくるが、俺は泣くのをやめられなかった。
自分でも何が起こっているのか分からない。
自分の心が制御できない。
「ほら、ぼうっとしていないで早く出発!」
女が当然のような顔をして助手席に乗ってきて、雪華が目をむいた。
「あなたもついて来る気か」
「いいから、車を出しなさい! 押し問答している時間がもったいない!」
女の迫力に押されるように、雪華が車をスタートさせた。
俺は友哉に抱きついたままずっと泣き続け、友哉は自分がひどい怪我をしているのに、俺をあやすようにずっと背中を撫で続けていた。
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