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「あけてー、あけてー、あけてー、あけて―……」
その声がどんどん大きくなっていく。
子供とは思えない力で、激しく窓を揺らして音を立てる。
「なんだ? 風が出てきたのか?」
友哉が窓の方を振り返った。
バン!
女の子が両手をついて窓に貼り付いた。
その目がぎょろりと友哉を見る。
俺が友哉を抱きかかえてびくりと一歩下がった時、強烈な光がピカリと目に刺さって来て、直後、ドスンバリバリと腹に響くような音が鳴り響いた。一瞬遅れてザーッと激しい雨が降り出す。
「わ、近くに落ちたな。夕立か?」
驚いている友哉を舐めるように凝視して、女の子はにぃっと唇を釣り上げる。
「いいもの見つけた」
蛇に睨まれた蛙みたいに、体が硬直する。
「う……やばいかも……」
その時、ひときわ大きな銀色の影が俺達の後ろから飛び上がり、頭の上を超えて窓の外のものへ襲いかかった。
「銀箭!?」
だが、その牙が届く前に少女の姿の怪異はふっと消え失せてしまった。
「銀箭、お前こんなところまで来たのか。久しぶりだなぁ」
友哉が嬉しそうに、大きな狼に手を差し伸べる。銀箭は俺の使う式狼ではなく、誰にも従属していない狼の魔物だ。理由は分からないが友哉を気に入っていて、しかも俺が持っているどの式狼よりも大きく、力が強い。
自分の意思で友哉を守っている銀箭がこの場に現れたということは、さっきの自称神様は相当にやばい奴だということだ。
「え、ちょ、銀箭、何だよ」
銀箭は友哉の体を押すようにして体を擦りつけるから、友哉がよろめく。銀箭は俺の顔をじっと見てくる。早く友哉をここから連れ出せと言いたいんだろう。
「友哉、ここはヤバイ。すぐ出よう」
「ヤバイ?」
「うん、ヤバい奴に目を付けられた」
「そうなのか? じゃぁ、土足で汚れたところを……」
「いや、のんきに掃除している場合じゃないって!」
「え、でも」
「ごめん、友哉!」
「うわっ?」
友哉の体は軽い。ひょいと抱え上げて肩に担ぐと、俺は全力で走ってその部屋を出た。
「わ、雨が……!」
大粒の雨の中を、そのまま全速力で車まで来てドアを開け、頭をぶつけないように押さえながら友哉を助手席に押し込む。
「急いでシートベルトして!」
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