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「それは言えない」
「大賀見家の誰か?」
「それも言えない」
「もしかして大賀見家の当主?」
「違う」
『言えない』と『違う』をわざわざ使い分けるのは、本気で隠す気が無いということか。
ハルの目をうかがおうとしたが、友哉を見つめていてこっちを見ようとしない。
「それじゃぁ、大賀見雪彦?」
雪彦がえっと目をむく。
「違う」
やっぱり、違う時ははっきりと否定するんだ。
俺は思い当たる人物を口にしてみる。
「じゃぁ、大賀見誠司の親とか?」
「それは……言えない」
「言えない?」
「言えない」
言っているようなものだけど。
俺が笑うと、ハルもくすっと笑った。
そうか、誠司の親か。
あそこまでどうしようもないクズでも、親にとっては大事な子供だったのか。むしろ親が甘やかしすぎたせいで、ああいうバカな独裁者に育ったのかもしれないが。
「言っておくけど俺は誠司を殺していないよ」
「そうなのか?」
「殺されたのは、あいつの自業自得ってやつだよ」
「ああ、その通りだ。警察の調べたところだと、犯人は誠司から性被害にあった女の子の父親で、謝罪を求めて言い争いになり、揉み合いになって屋上から落としてしまったらしい。事故みたいなものだし、誠司のこれまでの悪事を考えると犯人には情状酌量の余地もたっぷりとあるだろう」
雪華の説明にハルは感心したようにふむふむとうなずいている。
「大賀見雪彦は大賀見誠司に詳しいな」
「新聞や週刊誌にも載っていることだが」
「私は世間の情報に疎くてな」
恥じているわけではなく、それを当然のようにハルは言った。
雪華が溜息を吐く。
「そのようだな……。大賀見誠司は殺されて当然の、本物のクズだった。他にも大きな恨みを買っていたようで、霊安室に置いてあった遺体にまで報復されている」
「遺体に報復とは」
「右足の太もも部分がなくなっていたそうだ。大型の獣にでも噛みちぎられたかのように」
「え……俺、それ初耳」
「私も最近聞いたんだ。外聞が悪くて伏せられていたらしい。まさかあきらじゃないよな?」
「俺はそんな意味のないことしないよ。あ、そうだ、誠司の式狼に襲われて足に障害の残った男の子がいなかった?」
「その子についても調べたそうだが、数年前に他県に引っ越して以来、本人も家族もこちらに来た形跡はないらしい」
「そっか……。誠司はクズだと思うけど、死体に何かしようとは思わなかったな。俺の復讐は狼はがしをした時点で終わっていたし」
「狼はがし? 復讐?」
ハルがきょとんと俺を見る。
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