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「友哉は、大賀見家の連中の呪いから俺を守ろうとして目の光を失ったんだ。だから、俺はその復讐としてあいつらから式狼を奪っていって……」
「ちょっと待て。久豆葉あきらは倉橋友哉の両親を殺し、倉橋友哉の視力を奪い、倉橋友哉を騙して自分のものにしたんじゃないのか」
「まさか。そんなことしたら友哉に嫌われるじゃん」
「は?」
「俺は友哉の親を殺していないし、視力を奪っていないし、まぁ多少の嘘はあるけど、悪意で騙したり……はしていないよ」
「そうなのか? ではあのニュースの映像は」
「フェイクニュースでしょ」
「ふぇいく……」
ハルの目が俺と友哉の間を何度か行き来するのを見て、雪華が息を吐く。
「蓮杖さん、依頼者の言うことを何でも鵜呑みにしない方がいい。特に、あなたのように力の強い人は」
「うむ、そうだな。同じことをよく兄に言われる」
「お兄さん?」
「ああ、教団の運営はすべて兄に任せているのだ」
「教団とは」
「私が教祖をしている『しあわせの愛のひかり教団』だ」
「うわ、嘘くさい名前」
つい口から本音が漏れた。
ハルも自分でそう思っているのか、くすくすと笑った。
「兄のセンスだ、笑ってくれるな」
「でも、胡散臭すぎだろ」
「私のような人間は普通の生活というものが難しいらしい。だから兄が私の生きる場所を作ってくれたのだ」
「では、蓮杖さん。これからは依頼に関することもすべてお兄さんに相談した方がいい」
「兄には霊もあやかしも見えないのにか?」
「見えなくても、あなたよりは世間を知っているようだ」
「なるほど……。では次からは兄と相談して仕事を決めよう」
「で? ハルはまだ俺を殺す気?」
ハルはふふんと鼻で笑った。
「人間に戻ったお前には負ける気がしないが、依頼料の分はもう充分に働いた。今回は引き分けということにしておいてやる」
「いいのかよ。魔物はすべからく殲滅せねばって言ってなかった?」
「だがもうすっかり戦意喪失した。泣きべそをかいている子供を倒してもつまらないしな」
からかうような目で、ハルはニヤリと笑ってくる。
俺は腫れた目元をごしごしと擦った。
「それに」
ハルの視線が友哉の顔へ移り、その目が優しく細められた。
「久豆葉あきらを殺すと倉橋友哉が泣くだろう?」
友哉は静かに寝息を立てている。
「私は倉橋友哉に一目惚れした。倉橋友哉を泣かせたくないからな」
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