6-(4) 揺り戻し

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「はぁ……? 一目惚れって、お前」  分かっていたけど、はっきり言われるとものすごく嫌な感じがした。  思わず目に魅了の力を込めて見つめると、ハルはびしっと姿勢を正して指を刀剣の形に立てた。俺達の間で空気がビリビリと振動し始める。 「やめてくれ、二人とも。友哉君の体に障る」  雪華の声で、病室に満ちた力がパシッと霧散した。  俺は牽制するように友哉の手を両手で握った。  ハルは二本の指を立てたまま俺を睨んでくる。 「蓮杖さんは、その、だいぶ友哉君とは年が離れているようにみえるが」 「私は27だ」  雪華の言葉に、ハルは胸を張って答えた。 「友哉はまだ15だ。お前ロリコンかよ」 「男の子好きは確かショタコンと言うのではなかったかな?」 「どっちだっていいよ」 「今時、歳の差などそれほどの障害ではないだろう」 「言っとくけど、友哉は体が弱くて女を抱けないから」 「かまわない。私も生涯清らかな処女でいるつもりだ」 「そ、そんなこと聞いてねーよ」 「男を知ると霊力を失うのではという危惧があってな」 「だから聞いてねーって」  ハルはニコッと笑った。 「今、少し安心しただろう。自分が汚れ切っている分、倉橋友哉には汚れて欲しくないのだな」 「見抜くようなことを言うな」 「親を取られたくない子供のような、一途な嫉妬心でもある」 「だから、そういうのやめろ」 「うむ……私は知りたいのだ。久豆葉あきらは倉橋友哉をどうしたいのだ?」  またその質問か。  ミコッチにも、雪華にも同じことを聞かれた。  俺が友哉をどうしたいのか。 「どうにもしないよ」 「そこまで執着しておいて?」 「じゃぁ聞くけど、『どうしたい』って、いったいどういう意味で聞いているのさ」 「そうだな。身も心も支配したいのか、いずれ食べるつもりなのか、魂を奪うつもりなのか」  俺はゆるゆると首を振った。 「そんなことしない。俺はただ、友哉にはずっと俺のお兄ちゃんでいて欲しいだけ」 「お兄ちゃん」 「うん。友哉は俺を弟みたいに思ってるから。このままずっと友哉のそばにいて、友哉の柔らかい愛情にくるまれるようにして、ひたすらぬくぬくと生きていたいだけだよ」  俺が友哉に求めているものは、普通の人間なら誰でももらったことがあるものだろう。親とか兄弟とか友達とか恋人とか、大事な人が大事な人へ贈るもの。  でも、俺は半分狐のあやかしだから、いつも無意識に人を魅了してしまう。あやかしの力で無理矢理もらう愛情は、けして本物とは呼べない。  だから、友哉だけだ。  友哉だけは俺に支配されずに、俺に本物を与えてくれるんだ。
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