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「はぁ……? 一目惚れって、お前」
分かっていたけど、はっきり言われるとものすごく嫌な感じがした。
思わず目に魅了の力を込めて見つめると、ハルはびしっと姿勢を正して指を刀剣の形に立てた。俺達の間で空気がビリビリと振動し始める。
「やめてくれ、二人とも。友哉君の体に障る」
雪華の声で、病室に満ちた力がパシッと霧散した。
俺は牽制するように友哉の手を両手で握った。
ハルは二本の指を立てたまま俺を睨んでくる。
「蓮杖さんは、その、だいぶ友哉君とは年が離れているようにみえるが」
「私は27だ」
雪華の言葉に、ハルは胸を張って答えた。
「友哉はまだ15だ。お前ロリコンかよ」
「男の子好きは確かショタコンと言うのではなかったかな?」
「どっちだっていいよ」
「今時、歳の差などそれほどの障害ではないだろう」
「言っとくけど、友哉は体が弱くて女を抱けないから」
「かまわない。私も生涯清らかな処女でいるつもりだ」
「そ、そんなこと聞いてねーよ」
「男を知ると霊力を失うのではという危惧があってな」
「だから聞いてねーって」
ハルはニコッと笑った。
「今、少し安心しただろう。自分が汚れ切っている分、倉橋友哉には汚れて欲しくないのだな」
「見抜くようなことを言うな」
「親を取られたくない子供のような、一途な嫉妬心でもある」
「だから、そういうのやめろ」
「うむ……私は知りたいのだ。久豆葉あきらは倉橋友哉をどうしたいのだ?」
またその質問か。
ミコッチにも、雪華にも同じことを聞かれた。
俺が友哉をどうしたいのか。
「どうにもしないよ」
「そこまで執着しておいて?」
「じゃぁ聞くけど、『どうしたい』って、いったいどういう意味で聞いているのさ」
「そうだな。身も心も支配したいのか、いずれ食べるつもりなのか、魂を奪うつもりなのか」
俺はゆるゆると首を振った。
「そんなことしない。俺はただ、友哉にはずっと俺のお兄ちゃんでいて欲しいだけ」
「お兄ちゃん」
「うん。友哉は俺を弟みたいに思ってるから。このままずっと友哉のそばにいて、友哉の柔らかい愛情にくるまれるようにして、ひたすらぬくぬくと生きていたいだけだよ」
俺が友哉に求めているものは、普通の人間なら誰でももらったことがあるものだろう。親とか兄弟とか友達とか恋人とか、大事な人が大事な人へ贈るもの。
でも、俺は半分狐のあやかしだから、いつも無意識に人を魅了してしまう。あやかしの力で無理矢理もらう愛情は、けして本物とは呼べない。
だから、友哉だけだ。
友哉だけは俺に支配されずに、俺に本物を与えてくれるんだ。
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