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「なるほど、お前のような性悪のケダモノを懐柔してしまうとは……。倉橋友哉はまるで獰猛なユニコーンを鎮める清らかな乙女といったところか」
「えええ……その喩えはどうなの……」
絶妙に恥ずかしいことを言われて俺がドン引きしているのに、雪華は急に目を輝かせて話に入ってきた。
「確かに、確かにそうだ! 友哉君はまるで清らかな乙女、まるで生きる奇跡だ。ここまで清廉できれいな子は他にいない。一目見た時からきれいだと思っていたけど、最近ますますきれいになった気がするのだ」
「分かるぞ。このケダモノに首を噛まれたというのに、おのれより先に久豆葉あきらの無事を確かめる。眩しいほどに尊いものを見せられた。自己犠牲の心というのはある種の神が非常に尊ぶ性質らしいからな」
「ああ、ああ、その通り。十年以上もあきらを守って自己犠牲を貫いてきた友哉君はかなり徳を積んだような状態になっているんだろう」
「なるほど十年以上か。分かる、分かるぞ。傷だらけなのに神々しい魂は、その年月の積み重ねによるのだな」
推しのアイドルを絶賛するオタクのように、二人はどんどん早口になっていく。
ハルは最初からどこかおかしかったが、雪華がこんな風に話すのは初めて見た。術者同士で何かが通じ合うのか、二人はいかに友哉が麗しいかという話題でどんどん盛り上がっていく。
雪華が身振りでソファを勧め、二人は向かい合って腰を落ち着けてしまった。
「友哉君は私の作った呪詛によって耳を食いちぎられているというのに、呪詛返しで痛めた私の足を心配してくれた。本当に優しい子だ」
「では、久豆葉あきらを祓おうとした私も、受け入れてくれるだろうか」
「ええ、きっと。誠実に話せば分かってくれるはず」
二人の熱い会話を聞いている内に、俺の涙はいつのまにか乾いていた。
「先程、久豆葉あきらが言っていたが、倉橋友哉が女を抱けないというのは?」
「はっきり聞いたことは無いが、おそらく性的欲求が無くなったのだろう」
雪華が確認のように俺を見てくるので、俺は仕方なくうなずいた。
「なんと、性欲が……?」
「ああ、呪いで魂を傷付けられたせいで友哉君はかなり弱っている。生きるということにエネルギーを全振りしているので他のことにエネルギーを割けないのだろう」
「それは哀れな、そして健気なことだな……」
「睡眠時間が大幅に増えたのも、省エネ生活で出来るだけ長生きしようと無意識に活動をセーブしているのだと私は推測している」
「長生きか、なぜそんなものを望む?」
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