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「それもきっとあきらの為だろう。あきらは寂しがり屋で甘えん坊だ。友哉君はできるだけ長くそばにいてやりたいのではないか」
「久豆葉あきらは幸せ者だな。そこまで想われているとは」
勝手なことを言っている二人を無視して、俺は友哉の手の甲をそっと撫でた。温かさがやけに胸に沁みてきて、そこにコツンと額を乗せた。
雪華とハルの友哉談義はまだ終わらない。
「友哉君はこの一月ほどの間に、二体の霊を成仏させている」
毎日友哉に話しかけているおかげで雪華は色々な情報を持っているから、その口調はかなり得意げだ。
「成仏? 祓ったのではなく、成仏させたのか?」
「友哉君は見えるだけだからな。祓う知識も力も持っていない」
「ではどうやって」
「ただ優しく諭すだけで成仏させてしまったのだ。コンビニ前のサイトウさんと三乃峰駅にいたトクダさんという二体の霊を」
「すごいな、諭すだけでか。またさらに徳を積んでしまったのだな」
俺はその時も一緒にいたが、友哉は諭したわけじゃなくてただ話を聞いてやっただけだった。寂しい霊はそれだけで救われたらしい。
「ほかにも、踏切前の竹久くんと公園にいるひばりちゃんという地縛霊も成仏まで秒読みの段階になっているから、友哉君は自分ではまったくそういうつもりが無いままに、どんどん魂を磨いてしまっているようだ」
「だが、ここまできれいだと良くないものまで引き寄せて危ういな」
ハルはそう言うとソファから立ち上がり、周囲に鋭く視線を巡らせた。
「ああ、確かに。最近の友哉君は悪霊ホイホイの状態だ」
雪華も窓の向こうへ目を凝らす。
「悪霊ホイホイ、うまい喩えだ」
笑いながらハルが指を刀剣の形に構えた。
「廊下にも、窓の外にも、低級霊が集まり始めている」
幽霊に低級とか高級とかあるのかと聞こうとしたが、張りつめた空気に言葉を呑み込んだ。
今までうるさいくらいに盛り上がっていた二人が黙ると、部屋の外からざわざわとした喧騒が聞こえ始める。パーティー会場や劇場のようなどこかウキウキしたようなざわめきだ。
「病院という場所柄、ああいったものが寄ってきやすいのだろうが、これまた多いな」
ここは三階のはずだが、まるで窓のすぐ外にたくさんの人がいるみたいに騒がしくなってきた。
雪華の屋敷内は狼の気配が強いせいか、こういう現象は起きたことが無い。俺は少し緊張して友哉の方へ体を寄せた。
ぴし、ぴし、と天井や壁が鳴り始める。カタカタカタと椅子やテーブル、テレビなどが震え始める。ベッドも微かに揺れたが、俺達三人が手を添えるとその震えは止まった。
「これほどの数は久しぶりに見たな」
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