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6-(5) 食べられた16人
あの時、舌に感じた友哉の血はすごく甘くて美味しかった。それは、認める。
でも、俺は半分人間なので、人を殺したいとか、人を食べたいとか、積極的に思うことはない。まぁ半分は狐のあやかしなので、人が殺されても、人が食べられていても、あんまり恐怖は感じないんだけど。
「うーん、これはどういうことかな」
御前市の港の近くに、ひとつだけ背伸びするように建っているタワーマンションの最上階。最近、ここら辺も少しずつ開発されているんだけど、元は漁師町だったところなのであまり景観はおしゃれではない。それでも一応、オーシャンビューはオーシャンビューだ。
その、いささか微妙な風景を見下ろすリビング中央に、誠司の父親である大賀見英司が転がっていた。狼をはがした時に一度会っているから、英司本人であることは間違いない。だが、その体はまるで大型の獣に齧り取られたように、左側の腹から尻にかけてごっそりと無くなっていた。
顔を近づけて観察してみる。傷口の大きさの割に流れ出た血の量は少なく思える。まるで何かが大きな口で噛みついて、じゅるりじゅるりと体液を吸いながら咀嚼して飲み込んだみたいに。
「おえ」
なんでわざわざこんな不摂生を絵に描いたような中年のおっさんを獲物にしたんだろう。
飢えた化け物がたまたま通りすがった……なんていう偶然が地上20階で起こるとは思えない。明らかに大賀見英司を狙って何かがここに来たんだろう。
その何かが俺や友哉に関係があるのか、それともまったく無関係な別件なのか。
面倒だけど、せめてそれだけでも情報収集するか。
「はぁ……」
俺は部屋の隅っこにうずくまっている英司の幽霊を見て、軽く溜息を吐いた。
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