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今朝早く、友哉の横でたっぷりと寝たおかげで気持ち良く目を覚ました俺は、同じようにたっぷり寝て顔色の良くなった友哉に、コンビニに行くと言って病院を出た。
またハルみたいな拝み屋を雇われると面倒だから、早い内に手を打っておこうと思い立ったのだ。誠司の親に直接会って、もう二度とオイタしないように心を完全に支配してしまうつもりだった。あんまり聞き分けが無かったらいっそ廃人にしてやろうかなというくらいの勢いで。
だけど。
「ねー、誰に殺されたの? 未練があるから幽霊になったんでしょ?」
豪華な内装の部屋のすみっこに、ぼんやりした影が背中を丸めて座っている。リビング中央に転がっている死体と同じバスローブを羽織っているから英司の霊だと思うんだけど、後ろを向いたまま何かをぼそぼそ呟くばかりで要領を得ない。
「うーん、死にたてホヤホヤって、こういうものなのかなぁ」
俺が今まで出会った幽霊は、はっきりと二種類に分けられた。友哉の目に映る幽霊と映らない幽霊だ。それはつまり、言葉が通じる幽霊と通じない幽霊、人間だったことを覚えている幽霊と覚えていない幽霊、寂しくて儚い幽霊と恨みつらみと悪意しかない幽霊だ。
もしかしたら例外もあるのかもしれないけれど、俺はそれを無害な幽霊と有害な幽霊だと判断して対処してきた。友哉の目に見える無害な幽霊は友哉に任せ、友哉に見えない有害な幽霊はこっそり狼に食べさせるというように。
「おーい、大賀見英司さん、自分が死んだって分かってる?」
英司の幽霊は答えない。
ここに友哉がいたら、英司の霊は見えるんだろうか。
ここに友哉がいたら、英司は怖がらずに話が出来るんだろうか。
「雪彦おじさんに調べてもらった資料を呼んだんだけどさ、あんたもけっこうな悪党だったんだよね。あっちこっちに恨みを買っているみたいだし、犯人の心当たりが多すぎるのかな?」
―― ……こわい。
「あ、やっとしゃべった。そうだね、殺されたんだから怖いよね。でももう死んでいるんだからさ、これ以上殺されることは無いんだし」
―― ……こわい、たすけて。
「だからー、もう死んでるから助けられないんだって。場合によっては仇を討ってあげてもいいよ。誰にやられたの? 殺されるときに相手を見たんでしょ?」
―― ……ね……
「なに?」
―― き、きつね……
「うん、そうだね。俺は狐だね」
―― きつねが……
「きつねが何?」
―― ……を、返してもらうと……
よく聞き取れないので近づいてみようとしたところで、カチャリとドアが開いてリビングに誰かが入って来た。
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