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「あきら、お前なぁ」
「お姫様抱っこじゃないだけましでしょ!」
「そういう問題じゃ……」
助手席のドアを閉め、車の前を回って運転席に滑り込む。
「戻って来い」
短い号令に、大雅、朧、琥珀、翆玉、つゆくさの五匹が俺の影にするりと戻ってきた。
俺はすぐにエンジンをかけて走り出した。
銀箭が追ってこないのは、あそこであの怪異を抑えているからかもしれない。
「友哉、ハルに電話して」
「いいけど、さっきエアコン入れっぱなし、ドア開けっぱなしで出てこなかったか?」
「そんなこと言っている場合じゃないって、今は逃げなきゃ!」
俺はアクセルを踏み込む。窓を叩く雨粒が横に流れていく。
「とにかく、あの田んぼと山が見えないところまで行かないと。県外まで出た方がいいかも知れない」
「そんなにヤバいのか」
「うん、雷落とすくらいだからね、かなりヤバイよ」
「でも、神様なんだろ? 話せば分かってくれるんじゃ……」
話せば分かる存在ならば、友哉の目にも見えていたはずだ。友哉には見えず、その声も聞こえなかったということは、意思疎通は不可能だということだ。
「とにかくハルに連絡……」
俺の焦った声を遮るかのように、友哉のスマートフォンが鳴り出す。
友哉が指を滑らすようにして通話状態にすると、スピーカーにしていないのにハルの大声が聞こえて来た。
『倉橋友哉、無事か!!』
「はい、無事です。ええと、今のところは」
「ハル! 変なやつに目を付けられた! どうすればいい?!」
俺ががなり声をあげると、向こうにも聞こえたらしい。
『大賀見家の四季の結界を張れ!』
「はぁ? そんなことをしたら俺が弾かれるだろ」
四季の結界というのは雪彦が友哉に伝授したものだが、半妖の俺まで外へ弾いてしまう強い結界だ。
「ハルも雪彦おじさんもここにいないのに、俺まで友哉から離れるわけにいかないって!」
そこでやっと友哉がスマートフォンをスピーカーにしたので、ハルの声がくっきり聞こえて来た。
『結界の外に狼を配置して、久豆葉あきらは外側から倉橋友哉を守ればよい! とにかく持ちこたえろ! すぐに行く!』
「行くって、場所は」
『倉橋友哉の居場所はGPSで常に分かっている』
「なにぃ! GPSってお前、いつの間に」
『好いた男の居場所は常に知っておきたいではないか』
「はぁ?」
「ええ?」
友哉がビックリしてスマートフォンを落としそうになる。
「ハルさん、困りますよ!」
『倉橋友哉、この蓮杖ハルが必ず助けに行くから、大船に乗った気で待っていればよい。電源は切るなよ!』
「え、ちょ」
「おい!」
ハルは言いたいことだけ言って通話を切った。
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