(3) 窓を叩くもの

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「あきら、お前なぁ」 「お姫様抱っこじゃないだけましでしょ!」 「そういう問題じゃ……」  助手席のドアを閉め、車の前を回って運転席に滑り込む。 「戻って来い」  短い号令に、大雅(たいが)(おぼろ)琥珀(こはく)翆玉(すいぎょく)、つゆくさの五匹が俺の影にするりと戻ってきた。  俺はすぐにエンジンをかけて走り出した。  銀箭(ぎんせん)が追ってこないのは、あそこであの怪異を抑えているからかもしれない。 「友哉、ハルに電話して」 「いいけど、さっきエアコン入れっぱなし、ドア開けっぱなしで出てこなかったか?」 「そんなこと言っている場合じゃないって、今は逃げなきゃ!」  俺はアクセルを踏み込む。窓を叩く雨粒が横に流れていく。 「とにかく、あの田んぼと山が見えないところまで行かないと。県外まで出た方がいいかも知れない」 「そんなにヤバいのか」 「うん、雷落とすくらいだからね、かなりヤバイよ」 「でも、神様なんだろ? 話せば分かってくれるんじゃ……」  話せば分かる存在ならば、友哉の目にも見えていたはずだ。友哉には見えず、その声も聞こえなかったということは、意思疎通は不可能だということだ。 「とにかくハルに連絡……」  俺の焦った声を遮るかのように、友哉のスマートフォンが鳴り出す。  友哉が指を滑らすようにして通話状態にすると、スピーカーにしていないのにハルの大声が聞こえて来た。 『倉橋友哉、無事か!!』 「はい、無事です。ええと、今のところは」 「ハル! 変なやつに目を付けられた! どうすればいい?!」  俺ががなり声をあげると、向こうにも聞こえたらしい。 『大賀見家の四季の結界を張れ!』 「はぁ? そんなことをしたら俺が弾かれるだろ」  四季の結界というのは雪彦が友哉に伝授したものだが、半妖の俺まで外へ弾いてしまう強い結界だ。 「ハルも雪彦おじさんもここにいないのに、俺まで友哉から離れるわけにいかないって!」  そこでやっと友哉がスマートフォンをスピーカーにしたので、ハルの声がくっきり聞こえて来た。 『結界の外に狼を配置して、久豆葉あきらは外側から倉橋友哉を守ればよい! とにかく持ちこたえろ! すぐに行く!』 「行くって、場所は」 『倉橋友哉の居場所はGPSで常に分かっている』 「なにぃ! GPSってお前、いつの間に」 『好いた男の居場所は常に知っておきたいではないか』 「はぁ?」 「ええ?」  友哉がビックリしてスマートフォンを落としそうになる。 「ハルさん、困りますよ!」 『倉橋友哉、この蓮杖ハルが必ず助けに行くから、大船に乗った気で待っていればよい。電源は切るなよ!』 「え、ちょ」 「おい!」  ハルは言いたいことだけ言って通話を切った。
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